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偕行社主催 公開講演会


                                26.06.01
                          

 偕行社主催 公開講演会

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 平成26年5月31日(土)、偕行社において公開講演会が開催され、元陸自研究本部長の中川義章氏が「我が国の核武装にかかわる技術的可能性」、つばさ会会員の坂本祐信氏が、「我が国の国防制度…その過去、現在、未来(政軍関係という観点からの考察)」とそれぞれ題し、講演を行いました。本稿では、まず、中川氏の講演についてお伝えいたします。

 中川講師は、まず最初に情報資料の評価のため、ご自身の研究歴について説明され、自身は核兵器の専門家ではないが、原子力の専門家であると自己紹介されました。続いて、これまで核武装に関する論議が混迷してきた要因として、「利害関係者の多様性」「核武装の多様な定義」「技術的事項の曖昧化」を挙げ、従来の論議が正しくない危険性を指摘されました。そのなかにあって注目に値する論文・資料の紹介を行い、議論の問題点が、技術的な面でも一定の理解に達していないことにあると指摘されました。

 講師は、これら従来の議論をまとめて、誤り・矛盾を正すために、今回の発表の目的を、「戦略環境の大変動に備えて、我が国の核武装に関する技術的な潜在力を明らかにする。」とされました。仮定の話ですが、我が国の核武装の段階として、
@一発だけ持つ場合、
A地域核戦力とも言うべき60発持つ場合、
B最小限戦略核抑止力ともいうべき400発持つ場合の3段階を設定されました。

 核兵器の基本構造については、量子力学の成果の説明である原子核物理から説明し、結論として、「原理的には秘密のないもの」であり、その限りでは、自動車と同じ工業製品であるとされました。

 核兵器の技術レベルは、全て1961年ころの米国産業であり、現在の我が国のレベルは、それよりはるかに進んだレベルにあり核兵器の製造は可能であるとされました。
@については、およそ1年、
Aについては、およそ5年、
Bについては、SLBM搭載原子力潜水艦の建造に時間を要するので、最低10年の期間が必要と話されました。

 なお、意外なことに核実験の必要性については、実験しなくても性能は保証出来る、但し精度が悪くなるとされました。自動車の試作をして、走行できるかといった試験は必要ないのと同じであるとのことでした。

 これらの結論から、技術論の立場からは、(製造そのものは問題ないため、如何に用いるかの)戦略論が重要であるとされました。

 講話後のフロアからの質問では、MIT留学間の中国人留学生に対する保全に関するMITの対応や如何、という質問があり、「基本的に物理的な現象を隠すことはできない。個人レベルで、アクセスできるデータ領域は決まっていた。私もNATO以外の同盟国陸軍将校としての待遇であり見ることのできるデータベースは、限られていた。」といった生々しい話も披露されました。

 以上、講話の内容は、政治的な観点とは一線を画すもので、純技術的な観点から語られたものでした。いわゆる混迷する核兵器に関する論議の内容から核兵器の原理原則的なものまで、ご自身の経歴、研究をもとに話された内容には説得力があり、高い関心を持たせるものでした。本分野における講師の今後の活躍に大いに期待したいと思います。

                       (記画:n-alfa)

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 中川義章氏略歴(東京大学昭和53年卒) 
1997年(平成9年) 1月:1等陸佐
帯広地方連絡部長、陸上幕僚監部援護業務課長2003年(平成15年)
           3月:陸将補に昇任
2004年(平成16年) 3月:北部方面総監部幕僚副長
2005年(平成17年)12月:統合幕僚会議事務局第5幕僚室統合運用計画官
2006年(平成18年) 3月:統合幕僚監部報道官
2007年(平成19年) 7月:中部方面総監部幕僚長兼伊丹駐屯地司令
2009年(平成21年)12月:陸将に昇任、第32代第1師団長に就任。
             平成22年、中央自観閲式 観閲部隊指揮官
2011年(平成23年)  4月:第6代陸上自衛隊研究本部長
2013年(平成25年)  8月:退官


               

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中川 義章 氏