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演題:「補給本部の現状と課題」

                    補給本部長 空将 三谷直人
「全般」
 令和元年度第2回目の講演会(三木会)を令和元年7月18日(木)グランドヒル市ヶ谷において開催した。
 今回は補給本部長の三谷直人空将にご講演を頂いた。講演終了後、片岡会長から本講演に対する謝辞が述べられた。
















「細部」
 講演内容の細部は以下のとおり。

1 はじめに
 つばさ会 会員の皆様におかれましては、平素より航空自衛隊に対しまして、様々なご支援を賜り、篤くお礼申し上げます。
 航空自衛隊補給本部長の三谷です。本日は、昨年末に策定されました『防衛計画の大綱』及び『中期防衛力整備計画』を踏まえつつ、その実現のため航空幕僚長が示された『航空自衛隊の「進化」』を期すべく、空自の後方機能の発揮において、補給本部が如何なる考えで、どのような取り組みをしているのか、その一端をご紹介させて頂きます。

2 補給本部の現状と課題
 補給本部の現状と課題、今後の取り組みについてお話をさせていただきます。補給本部は、装備品等の維持・管理をより効果的かつ効率的に実施するため、平成28年10月14日に組織改編を行いました。
 装備品等単位で更に効果的な後方支援活動が求められていること、また、予算を一元的に管理し効率的な執行が必要であることから、各部の所掌を装備品等単位に整理しました。
 加えて、各メジャーコマンドとの緊密な連携により、運用ニーズを積極的に収集するとともに、同ニーズを踏まえ、最適な予算配分を含む各種の施策・対策を推進するため、計画部企画課を増員し、予算管理機能及び各種事態に応じた迅速かつ的確な後方支援を実施する態勢を強化しました。
 次に「後方魂」の策定についてです。
 平成28年10月に補給本部創設60周年の節目にあたり、航空自衛隊後方の総本山として、これまで築いてきた伝統を受け継ぎながら、後方支援活動を実施するにあたっての、精神の「よりどころ」となるものを再確認するために、「後方魂」を策定しました。
 「平時の備えがいくさを決し、後方なくして勝利なし」また、空自後方の各種施策等を推進するために、常に根底に持っておかなければならない留意事項を「理念」として策定しました。@運用に先行・即応する持続可能な態勢、A変化に順応し不断に改善する柔軟な体制、B官民一体となった活動
 3つの理念として掲げられている切り口で現状分析しても多くの課題があります。
 課題克服のためのキーワードは、「全体最適化」や「各機能等の調和・バランス」にあると考えており、この点は空幕の認識とも一致しております。施策の推進にあたっては、次の4項目が重要だと考えております。
 課題T「極めて厳しい予算や人的環境下での実効性の高い後方支援」については、維持費不足が慢性化する中で、装備品の可動率についても低下傾向にあることがあげられます。
 予算の執行において補給処ごとに示達された維持費の担任予算科目の枠内で、最適な機種別の割当額を決定し、部品取得及び修理契約を実施している。このため、例えば、機体の部品と搭載通電部品の支援率の乖離が発生するなど、装備品システムとして最適な予算執行が必ずしも図られていない状況が認められます。
 装備品等システムの一元的な管理によるコンポーネント毎の予算執行の最適化が求められるところ、その実行には補給本部と各補給処、企業との適切な情報共有、綿密かつ複雑な調整を律する体制(態勢)を構築することが急務との問題認識があります。
 課題U「平素から有事までシームレスかつ俊敏に対応できる持続可能な後方支援」については、航空機整備は、現在の各航空基地での独立した整備体制では、作戦様相、状況の推移によってはフリート生産能力に限界があり、所要の航空機の確保が困難となることが予想され、補完するための体制の整備などが急務であること、高射部隊の機動展開地やレーダーサイトにおける後方活動については、仮に緒戦において機能喪失した場合には作戦の継続が困難となる中、攻撃を受ける蓋然性が高まった場合、防衛産業の派遣が極めて困難であることから、平素の段階から必要な措置を講じることが急務との問題認識があります。
また平素の体制に関しても、補給処における装備品の需給統制については、各補給処長の需給統制権が担任品目に対してのみに限定されるため、装備品システム毎で供給の優先順位の設定が困難となっており、非効率かつ俊敏性を欠く状況が認められることから、運用ニーズに追随できる後方体制(態勢)を構築することが急務との問題認識があります。
 課題V「防衛生産・技術基盤の確保」については、空自の後方は防衛産業に大きく依存しているものの、防衛需要は、市場が限定されているため量産効果が期待しにくく、さらに、技能の維持・伝承が難しいという問題や、調達数量の減少に対応できない等の理由から、一部企業の防衛事業からの撤退などの問題も生じております。これらの企業は特殊かつ高度な技術を有しているため、代替性に乏しく、多くの企業が撤退した場合、後方体制(態勢)基盤の確保が著しく困難となります。
 継続した一定規模の契約を確保するとともに、部外力の活用範囲の拡大等による防衛産業の更なる活用により、防衛生産・技術基盤を確保していくことが急務との問題認識があります。
 課題W「FMS調達機能の強化」については、F-35A、E-2D、グローバルホークなどFMSにより取得され、その維持もFMS調達で行われることから、より依存度が高まっています。
 一方で、FMSは米側の制度により実施されることから課題があることも事実であり、防衛省・自衛隊としても、より主体的かつ組織的に対応すべき状況にあります。
 防衛装備庁、空幕と連携しつつ、より組織的な交渉、調整及び情報収集ができる体制(態勢)を構築することが急務との問題認識があります。
 このような問題認識に基づき、課題克服のための方向性として三点、@「装備品等の特性等に応じた整備要領の見直し」、A「整備需給活動に資するシステムのSCMの強化、B「対米調達に関する交渉・調整力の強化」について、順に説明したいと思います。
 @「装備品等の特性等に応じた整備要領の見直し」についてです。
 方向性として、アイデア・ベースではありますが、一例、一案についてお話したいと思います。2段階整備等による整備の効率化等として、航空機整備は、部隊整備と支援整備の2段階整備に移行し、基地での支援整備を官民一体で実施し、効率化を図るというアイデアがあります。
 高射整備は、現在の3段階整備を維持しつつも有事の即応性確保等のため、ITネットワーク等による遠隔地整備を実現し部隊整備力を強化するというアイデアがあります。 地上レーダー整備は、支援整備を補給処整備に集約する他、ITネットワーク等による遠隔地整備を実現し部隊整備力を強化するというアイデアがあります。
 「RNM(Repair Network Management)」部隊整備以外の整備を一元的に統制する部署または職を指しますが、これを補給本部に設置することによりロジステックス・サイクルの俊敏性を図るものです。
このRNMは短期的・長期的な運用ニーズへ迅速かつ的確に対応するため、整備に関して装備品等システム毎に一元的に統制する役割を担うこととなります。RNMは運用部隊司令部等と連携して運用ニーズを把握し、整備担任部隊及びプライム企業等の整備力を踏まえて、最適な整備計画を策定し、整備活動を統制します。
 A整備・需給活動に資するシステムのSCM(「Supply Chain Management」)の強化についてです。
 課題克服の狙いは、まさに、すでにお話しいたしました「全体最適化」と「各機能のバランス」を図ることにあります。
 方向性について一例、一案を挙げます。整備・需給活動のシステムに関する部品フローを一元化するため、現行の補給処を補給本部に合わせて装備品等システムに対応した物別補給処体制に移行することも一案です。
 「SCCM(Supply Chain Control Manager)」先に説明したRNM(「Repair Network Manager」)と連携し、担当する装備品、機種またはコンポーネントに関するサプライチェーンを管理する部署または職を指します。
















 従来の資材計画業務に加えて配分を受けたシステムの予算管理及び在庫統制業務を行うことで、サプライチェーンの一元管理を実現する狙いがあります。
 資材計画業務を強化するため、一部の業務をプライム企業に委託することも効果が期待できそうです。AIを活用することも検討の余地があるかと思います。
 B対米調達に関する交渉・調整力の強化についてです。空自のF-35A、E-2D、グローバルホークや陸自のオスプレイなど、防衛省としてFMSによる取得及び維持整備が増加することから、米国防省に対する防衛省の交渉・調整力の強化が必要との認識の下、装備庁、各幕と連携し、専門性の高い「FMS専門部署」を設置するとともに、派遣している既存のFMS連絡官及びシステム連絡官の位置づけ、役割についても見直しを行う必要があるものと考えます。

以上、「補給本部の現状と課題」について説明をさせていただきました。
ご清聴ありがとうございました。