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由良2佐の戦史記事


                                26.02.25
                          

 大戦機のエンジンについて(その2)


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  前回、零戦に1,500馬力エンジンを付けた試作機があると書きました。今回はそれに引き続き、エンジンと機体について書いてみます。零戦に搭載された1,500馬力エンジンは金星六二型と呼ばれていました。このエンジンは先の大戦の後半にかなりの機体で用いられていました。

 皆さん、液冷エンジンをつけていた日本陸海軍機があったのをご存知ですか。陸軍の三式戦闘機飛燕と海軍の艦上爆撃機彗星です。この2種類の機体は大戦末期、空冷エンジンに換装されその信頼性が向上し活躍しました。この換装に使われたのが金星六二型です。機体はそれぞれ通称五式戦闘機(キ100)と彗星三三型と呼称されました。このように書くと、質問が来るかもしれません。「日本の陸軍と海軍は仲が悪かったはずだ。何故陸軍機が海軍機と同じエンジンを搭載できるのか」と。

 陸軍と海軍はその生産資源の配分問題では犬猿の中でしたが、航空機のエンジンは基本的に同じものを使っていたのでした。例えば零戦は栄エンジンを搭載していましたが、陸軍の同じクラスの一式戦闘機隼も基本的に同じエンジンでした。また、海軍の一式陸上攻撃機と陸軍の九七式重爆撃機も同じエンジンを使用していました。正確には同じエンジンに異なる名前を付け使っていました。例えば海軍の名称「栄二一型」が陸軍では「ハ115」と呼ばれていました。

 また、金星六二型は有名な機体にも使用されていました。それは一〇〇式司令部偵察機三型です。この機体は日本の実用軍用機で最速を誇る機体で、基本的に速度性能を重視したために胴体やエンジンを搭載するナセルは極力細く設計されていました。二型までの搭載エンジンは零戦の試作機である十二試艦戦に搭載されていた細身の瑞星エンジンでした。この瑞星エンジンは、戦闘機等小型機用として開発されていました。しかしその能力向上が見込めなくなったため、陸軍は、馬力は大きいが、その分直径も大きく空気抵抗も大きくなる金星エンジンの搭載を決断しました。金星エンジンは大型機用に開発されたエンジンでした。細身を旨として空気抵抗を減らしてきた設計陣としてはある意味青天の霹靂だったと思います。この処置は功を奏し、前述のように三型は日本最速を誇る機体になり、高高度性能も良好だったとされています。これは、一〇〇式司令部偵察機が長距離強行偵察を可能にするため、速度性能に重点を置いていたことが最も大きな要因かと思います。だから他の問題は許容できたのかもしれません。

 また、陸軍の運用者は、運用中の二型では、敵の戦闘機が高速化していき、その優位性がいずれ維持できなくなることを明確に認識していたでしょう。しかし、今までの細身のエンジンから、より直径が大きなエンジンへの換装を言い出すことには勇気がいったことでしょう。成功体験を捨て去り、新たなチャレンジをすることと同じですから。

    防衛研究所戦史研究センター国際紛争史研究室 所員 由良富士雄


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