平成21年3月中旬の記事




3月20日
AIG役員に支給された巨額ボーナス問題で、米議会はAIGのリディCAOを呼んで公聴会を開きました。リディ氏はボーナス支給の理由の一つを有能な社員引き止めのためだとし、引き止めができなければAIGの再建は出来ない、引いては米国経済に大きな悪影響を与えると述べ、支給を止めたらとんでもないことになるかも知れないということを言外に言いました。

その後「08年分のボーナスは、07年分100%同額とする」、「保有資産を時価評価したことで生じる損失などはボーナス支給に影響しない」と記された契約書が明るみに出されました。最高6億円にも登る巨額のボーナスを、経営状況がどうなろうと支給するという契約がなされていることには驚く外ありません。

その有能とされる社員たち、もともとはAIGを危機に陥れた張本人たちですが、経営が破綻に面していることを知り、ボーナスを貰ったらさっさと退社した人が52人にも上ったとのこと、呆れたものです。これではリディCAOの説明は説得力を欠きます。

自分たちが起こした危機をもって、社会を脅迫するような手法は反社会的ですが、日本の隣の国も自国が破綻すれば周辺に大きな迷惑を及ぼすことを武器に、やりたい放題のことをやっています。自分たちを支援しなければ、ミサイルを発射し、核兵器開発を強行するというのは、あまりに勝手な言い分ですが、国際社会はこの脅しに対処できず、右往左往しているのが今の状態です。

わが国でも、民主党の小沢代表は自らの非を棚に上げて、検察の批判を強めています。不正、非道徳、ごり押しが裏の世界ではなく、表の世界でもまかり通るのは、世界でも日本でも無くなって欲しいものです。


3月19日
北朝鮮の外相が訪中、両国の外相会談が行われました。関係国の関心の的となっているのが北のミサイル発射についての両国の話し合いがどうなっているかですが、中国が自制を求めたのに対し、北はこれを拒否したという見方が強くなっています。

北朝鮮は、このところ様々な強がりとも見えることをやっています。米国からの食料支援を断わったことは、韓国との経済関係を閉ざす動きと共に理解しがたい行動と言えましょう。

今日になって、米国人ジャーナリストが中朝国境で北朝鮮側の撮影をしていたところ、北朝鮮の警備兵が国境を超えて中国側に入り、2人を拘束した事件が発生したというニュースが伝えられました。中国の立場から言えば主権の侵害ですし、米国からすれば米国民の拉致行為です。この事件を米中両国がどのように処理するのでしょうか。穏当に済ますのか、そうでないのか。

北朝鮮のこれら一連の行動が何を意味するか分かりませんが、今年に入ってからの行動が以前とは違ってきたのは確かです。最もありそうなのは国内事情の反映で、それは指導者層の不安定化、特に後継者問題です。朝鮮労働党組織指導部が昨年12月、一部の党幹部に対して金正日の後継を世襲とすることを強く示唆する内部通達を出し、思想教育を命じていたと在北京の複数の北朝鮮筋が明らかにしたという報道がありました。

後継者問題という深刻な国内危機を国際緊張へと転じ、引き締めを図るという典型的な姿ではないでしょうか。

中国の北朝鮮に対する影響力も日本など周辺が期待の眼で見るほど強いものでは無さそうです。このほど、中国南方網などネット上に、「中国に北朝鮮を防衛する義務はない」という論文が掲載され、多くのニュースサイトが転載していると伝えられます。つまり、この論文は共産党指導部も認めるところと思えます。中国にとって、北朝鮮は手に余り、不信感も生まれているのです。


3月18日
4月の気温を先取りしたような暖かい日が続いています。こんな日に大気を満たす杉花粉も厄介ですが、黄砂も困ったものです。以前は黄砂と言えば西日本のものでしたが、今日18日の黄砂予測図(気象庁発表)を見ますと、北海道から九州まで日本列島をすっぽり覆っています。

10年ほど前、黄砂の源の一つであるタクラマカン砂漠の周辺で2週間ほど旅したことがありました。玉で有名なホータンにも滞在し、夜屋台に出掛けてシシカバブーなど食べたのですが、その時も、一見清浄な空気の中で静かに砂が降っているのです。焼いた羊の肉にも砂がすこし付きます。これが黄砂の源かと思いながら、砂も一緒に食べてしまいますが、ここの砂は汚染されていないのか、健康には影響ありませんでしたし、これを気にしていたら生活できません。

黄砂が中国の人口密集地や工業地帯を越えて来る時に、様々なエアロゾルを吸収し、健康被害をあたえる物質に変化するのです。日本よりも濃密な黄砂が飛来する韓国では、深刻な健康被害がでているもようで、飛散がひどい場合には黄砂警報がだされ、高齢者・子供・呼吸器疾患患者の外出禁止になります。

連休頃に山スキーで立山に毎年出掛けていますが、黄砂がひどい年には雪で白い筈の山が黄色に染まり、汚い山になってしまいます。黄砂で汚染された雪は、喉が乾いても口に入れられませんし、スキーでも滑らない雪になってしまいます。

様々な影響が出ている黄砂ですが、加害国である中国に対し、対策を取るよう要求する動きは日韓両国には出ていません。この問題に対する日中韓三国の協議では、研究しましょう程度の話し合いにしか行われていません。中国に遠慮することなく、中国の工業化が日韓両国に深刻な黄砂被害を与えていることを示し、対策をとるよう要求するべきではないでしょうか。

黒風暴と呼ばれる砂漠に源が発する砂嵐に、一番悩んでいるのは中国の筈です。


3月17日
ジャーナリスト日高義樹氏が太平洋空軍(PACAF)のチャンドラー司令官にインタビューした番組が2月15日、テレビ東京で放映されました。日本の国内事情を含めて、興味を引いたところを紹介したいと思います。

その1 PACAFは太平洋軍(PACOM)の指揮下陸海軍海兵隊と緊密な連携をもって任務に当たっていると強調していました。小沢民主党代表のいう第七艦隊だけで良いという発想は、そもそも米軍にはありません。

その2 米空軍の主力戦闘機となりつつあるF-22の飛行隊は、米空軍が保有する全部で7個飛行隊のうち、3個飛行隊をPACAFに配備し、その中2個飛行隊をアラスカへ、1個飛行隊をハワイへ置くとし、日本への配備は考慮されていない模様です。しかし、緊張が高まったときには、C-17の支援を受けてF-22が展開するのは当然のこととしています。

その3 PACAFのF-16は次第に引退し、F-15は当面運用を続けるとのことですが、減らす傾向とのことです。両機種の後継機はF-22とF-35ですが、嘉手納へはF-35が配備されることになると言っています。

その4 中国軍との連絡は常に保っているとしています。その内容については語りませんでしたが、軍相互の何らかの意志疎通が図られている模様です。

概要は以上のとおりですが、空自として次期戦闘機候補であるF-22については、オバマ政権が生産終了を決断するのではないかとの懸念があります。米空軍司令官は2月に予定されている183機の生産では不足だと、生産増を要求していますが、その帰趨によっては空自の次期戦闘機の選定には決定的な影響がでるかも知れません。


3月16日
今朝の朝日はOPINION欄に論説委員の若宮啓文氏が「校長を悩ます田母神応援団」という半ページ六段の記事を書いています。若宮氏は田母神氏について「その近著を読んでみれば、相変わらず都合のよい史料の解釈が並び、ますます勇ましさが加わった。今や右派論壇の救世主といった趣である。」という評価をしています。

また、安倍元首相が月刊誌に「田母神論文に対するマスコミの反応は常軌を逸する」と評し、できるなら村山談話を塗り替えて「安倍談話」を出したかったと無念を語ったと書いていると述べ、政治家にも田母神氏を応援する人たちがいるとし、中川昭一氏や中山成彬氏を挙げています。

また、田母神シンパの一部から五百旗頭防大校長が激しい攻撃を受けていることを紹介し、予定されていた関西防大OB会での校長の講演が中止に追い込まれたことを紹介しています。若宮氏は、五百旗頭校長に対する批判は、学者としての言論には自由があり、制服組とは違うという政府見解を持って、田母神前空幕長と五百旗頭校長の場合を同じように扱うのは筋違いだとして、五百旗頭擁護の姿勢です。

多くの防大卒業者にとって、このような事態は中国の指導者の言葉を借りれば、「見たくないこと」と思います。マスコミに騒がれ、一体防大卒業生はどうなっているのだと言われても仕方ないことです。

2月に行われた防大同窓会で、竹河内会長は「校長の言動の一部をとらえて攻撃する人もいるが、全体を見れば理解でき、尊敬できる。」と述べ、沈静化を図りました。しかし、この問題は田母神氏の活動もこれあり、同窓会長として苦慮しているところと推察します。更に、卒業生の意見が二分されるような状態が続けば、困るのは現役の自衛官たちではないでしょうか。

五百旗頭氏と田母神氏の活動により、防大同窓会、卒業生はかつてない危機に直面していると感じます。どのように解決したら良いのか、お二人とも信念に基づいての行動でしょうから、容易には妥協できないところがあると思います。しかし、混乱はお二人の活動が原因しているのです。

ここで希望を述べれば、五百旗頭校長には軍学校のトップの指導者らしくどっしりと重みのある仕事をして頂きたい、田母神氏には、氏が氏の出自である自衛隊の隊員たちとの協調ができるような姿勢を持ち、かつ多くのOBたちとも一緒にやって頂きたいと願います。


3月15日
海上自衛隊の護衛艦2隻がソマリア沖での海賊退治のため昨日出港しました。と書くと格好がいいのですが、退治ではなく、ヘリが接近飛行したり艦の存在で海賊たちを脅かすことしかできないのは困ったことです。それを知ってか知らずか、護衛艦の護衛を要請してきた船舶は2500隻にも登りました。これら船舶全部を護衛するのは不可能なこと、自衛隊も大変な任務を引き受けたと言えましょう。

派遣部隊が武器使用できるのは刑法に定める正当防衛と緊急避難です。正当防衛の成立要件として、「急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為」ですが、急迫不正という文言の意味するところはなかなか難しいらしいのです。暴力を振るいそうな相手がいるので、こちらも用心して準備していたところ、予測どおり相手が暴力を振るってきた、これに応戦した場合は急迫にはならないのが判例だそうです。武装した護衛艦は海賊たちが暴力を振るってくることを予測していますから、海賊に武器使用した場合、急迫の正当防衛と言えるのか、懸念されます。

民主党の菅副代表は、海賊対策の新法に消極的な賛意を表しました。消極的になった理由は社民党や共産党がこれに反対だかららしいのです。自民と民主党の多くの議員がこの法案に賛成すれば、直ちに新法は成立します。民主党が決心すれば決着できる事案は枚挙に暇がありません。


3月14日
南シナ海で米海軍調査船が中国艦艇の妨害を受けた事件が発生した後、オバマ大統領と楊潔チ中国外相が会談しています。この会談は予め予定されていたものですから、それを知りながら中国は米調査船の妨害を行ったことになります。その後行われたクリントン国務長官と中国外相との間で、再発防止で合意したと報道されました。

米政府筋は「中国海軍が中央政府との事前の調整なしに、南シナ海で存在感を米軍に誇示しようとした可能性がある」との見方を強めていると読売が報じています。これは、本欄でしばしば取り上げた中国の軍と政府との隔たりが露呈した事例の一つと思えます。この状態では、中国政府の言うことを信じていると、いつか酷い目に会いそうな気がするのです。

米海軍は調査船にイージス艦を護衛に付け、調査活動を継続しています。不法な行動には力をもって対抗するという意志を示したもの、フォークランド紛争における英国の軍事的対応など、力を使わなければ主権が犯されるという場面では、躊躇なく力の行使に踏み切っています。わが国ではと思えば、領土然り、拉致然り、国の対応としては言うも憚れる状態です。

不法入国で強制退去処分が確定したフィリピン人カルデロン一家、主要紙の社説は日本残留許容、産経だけが法務省の措置に賛成しました。ところが、TBSラジオで視聴者の意見を聞いたところ、実に9割の人たちが今回の法務省の措置を是とする意見でした。温情を与えることと、その措置が今後の社会に与える影響を考慮すれば、不法は許せないという庶民の意志が示されたと言えましょう。

昨日行われた性教育に関する裁判に関する社説も、朝日は「創意つぶす不当な支配」だと判決を支持する意見ですが、産経は「過激な内容正すのは当然」として、都や都議3人に計210万円の賠償を命じた判決に反対する意見を出しています。

この件についても、学校で過激な性教育をやっている様子だが、何とかならないものかというのが庶民感情でしょう。リベラルと言われる新聞の論説委員は、庶民感情との乖離が益々大きくなってきたように思います。


3月13日
北朝鮮が日本海と太平洋に制限海域を設定しましたので、ミサイル発射が現実化して来ました。ミサイル発射はないだろうと予想した本欄ですが、ミサイルを衛星と言い換えての偽装強行手段を予想に入れるべきでした。

海南島南方の南シナ海で、米国の調査船が中国の艦艇5隻に囲まれ、妨害を受けた事件が発生しました。2001年に米海軍のP3Cに中国海軍航空部隊の戦闘機が接触し、海南島の基地へ緊急着陸した事件がありましたが、その接触海域とほぼ同じところです。中国側は「米側が不法に活動した海域は中国のEEZであり、「国連海洋法条約」および中国の関係法の規定を遵守するのが当然だ。」として米国を非難していますし、この言い方はP3Cの場合と同じです。

中国は南シナ海で西紗、中紗、南紗の群島の領有権を主張し、かつ主要な島嶼で施設を建設するなどの既成事実を積み重ねています。これらの群島から200マイルのEEZを設定すると、南シナ海の2/3は中国のEEZに入ってしまうように思われます。中国発行の地図を見ると、南シナ海のほぼ全域を点線で囲い、自国の権益を主張しているのです。

中国の調査船が日本の領海近く、日本のEEZ内で調査活動をしているのは日常的に行われています。特に尖閣では領海内に侵入する事例もあります。これに対し、日本政府は抗議はしますが、形式的なものにしか過ぎず、中国は平然と活動を続けています。自国のEEZは権益を主張し、日本のEEZは無視するというダブルスタンダードです。

報道によれば、最近米国の調査船などに対する中国の対応が過激化しているそうで、オバマ政権成立後の米国の姿勢を探るという目的もありそうに思えます。北朝鮮のミサイル発射予告や対韓強硬姿勢も同様に米新政権への探針の意図が見えます。オバマ大統領も内政・外交・軍事と内外から様々な探りを入れられ、多難なことです。


3月12日
昨日、叔父の葬儀が行われ参列して参りました。弔辞を頂いた方の中に驚く様なことを述べて頂いた人がありましたので、紹介したいと思います。

その方は、数年前までパプアニューギニアで国連職員として活動してきた群馬県人ですが、ニューギニアにおける戦闘で大きな犠牲を出した部隊である高崎の第115連隊に関心を持ち、調査を始めたのだそうです。その中で、叔父の小林順次軍医を知り、何回か話を聞く機会を作ったのですが、話の中に叔父が米軍から投下された伝単を持ち帰っていたと言う話が出てきました。

叔父は、その伝単が毛筆で書かれており、投降を勧めながらも日本人の心の機微に触れる文章だったので持っていたとのことです。帰国した後、昭和38年9月号の文藝春秋に、「日本は負けていない」という記事が載りました。筆者は、C.S.バビアという英国人で、上記の伝単を作成した本人だとその記事の中にありました。

「日本は負けていない」という記事を伝単を作った外国人が書いたということだけでも驚くべきことですが、バビア氏は明治21年生まれ、4歳で来日、日本で教育を受けたそうです。二次大戦の頃はオーストラリア軍地上軍司令部で将官待遇で宣伝を担当していました。そのバビア氏ですが、深く日本人を愛し「日本人が日本人を好きなよりも、ずっと好いているといってもいいと思います」と文春の記事で書いています。

その文藝春秋の記事を読んだ叔父は衝撃を受け、是非バビア氏に会いたいと思っていましたが、諸事情で果たすことができないうちにバビア氏は死去したそうです。

文春の「日本は負けていない」という記事は、田母神前空幕長の論文と共通する意識を外国人、それも第二次大戦で対日宣伝を担当していた人物が持っているという稀有のものです。日本人が東京裁判史観に狎らされ、戦後次第に精神構造が変わって来ました。外国人にもかつては日本文化を愛し、日本人を敬って来た人たちが沢山おりましたが、そのような人たちは今は殆ど見られなくなりました。敗戦国として、かつ平和に対する罪という裁判で創造された罪で裁かれた国として見られる視点が戦勝国間に定着してしまったのではないでしょうか。