平成21年8月上旬の記事




8月9日
お盆の帰省ラッシュが始まりました。料金千円もあって昨日の各地の高速道路は大渋滞だったそうです。

先日、日本橋丸善へ立ち寄りましたら、新書版の本が見易く展示されており、思わず時間を過ごし、数冊を購入しました。その中の一冊に「「渋滞」の先頭は何をしているのか」(西成 活裕著)があります。西成氏は渋滞学という新しい学問分野を開拓、著書にも「渋滞学」あります。上記「渋滞の先頭はなにをしているのか」の一節に「驚くほど効率的 防衛大学校の学生の歩き方」があります。少々引用しますと、

「先日防衛大学校へ講演に行った時のこと、ここではすべてが規律正しく行われているのだが、歩き方にもそれが反映されていて驚いた。キャンパスを歩いていているときに、2人以上になると、必ず隊列を組んで歩くのだ。友人や先輩が通りかかると、お互い磁石のようにスッと近くに寄り、並んで歩き始める。始めは驚いてずっと観察していたが、そのうちにこれは大変効率的な動きだとわかった。例えば講義の合間の建物の移動などがとても素早くできるのだ。関係者に聞いてみたところ、効率性のためにやっているわけではなく、軍隊としての規律の意味があるそうだ。」

車の自然渋滞の発生原因が、ある車のちょっとしたブレーキ操作が次々と後続の車に伝わり、何台か後の車が停止してしまうことにあると西成氏は書いています。氏が効率的と言う防大の行進でも、パレードなどで先頭が間隔を取るためにちょっと歩度を緩めると最後尾は前につんのめってしまう経験を皆さんお持ちと思います。この事象には西成氏も気付きませんでしたが、渋滞専門家の観察にも見落としがありました。

渋滞は車だけではなく、世の中あらゆる所にあるのだそうで、年功序列という人事の渋滞、稟議書の渋滞、キャッシュフローの渋滞、血流の渋滞(心筋梗塞)などあり、ITではインターネットも渋滞の常習犯の例だそうです。

西成氏によれば、渋滞はその性質を知ればかなりの程度防げるのだそうで、車で言えば車間距離40mを保ち、速度を変化させないことがコツだそうですが、皆がこれを守らなければなりません。車間距離40m、二車線を80km/hで車が走ると、毎時約4,000台が通過します。渋滞で停止すれば、通過台数はゼロ、のろのろ運転の通過台数はその中間です。お盆で車利用の機会が増えますので、私どもも渋滞の原因を作らない様、気をつけましょう。


8月8日
クリントン元大統領が金正日と3時間半も何を話したのか、その内容を米政府は外交ルートで内容を韓国に伝え、それを韓国政府筋が伝えています。「敵視政策を撤回するなら、直接協議を通じて非核化に応じることができる。」と北朝鮮は言ったそうです。クリントン氏訪朝については、日本政府にもその内容が伝えられた筈ですが、政府は何も言いません。

政治家たちは選挙で忙しいのか、肝心のことについて官房長官の当たり障りのないコメントで済ませたのは頂けません。また、クリントン訪朝を一面トップで報じた各紙ですから、フォローして頂きたいし、国民もそれを望んでいると思います。

クリントン氏は会談で交渉はせず、金総書記の発言を米政府に伝えることを約束したそうですが、その一方個人的見解として、日韓の拉致問題を解決することが両国との関係改善につながるとの考えも示しました。日本の拉致被害者にとって嬉しいクリントン氏の行為ですが、今朝の産経社説はこの問題について「北を動かす具体策を競え」と与野党の無策を衝いています。

米政府は今回の人質解放には何の見返りも与えていないと言っています。北は恩赦をしましたが、クリントン訪朝という事実だけで、実質的な果実は何も得られなかったことになります。米政府報道官は今後も北が核廃棄を示さなければ米朝会談を始める意志はなく、制裁も続けると言っています。

米国は北に実質的な見返りを与えることなく、拉致された2人の記者を取り戻しました。オバマ大統領の対北政策がうまくいった一つの事例が出来ました。これを見ると、実行力のある米国と無策な日本の政治力の差を感じざるを得ません。


8月7日
最近、ロシアの攻撃型原潜2隻が米国東海岸をパトロールし、これを米軍はモニターしたと米国防省筋が確認し、冷戦時代を思い起こさせる事象だとAP通信が伝えました。

2隻の原潜は距岸数百マイルを行動し、米軍の活動に支障を与えることはありませんでしたが、米軍はびっくりしたそうです。それ以前の昨年2月、西太平洋でロシア偵察機が空母ニミッツを偵察、1機は空母の直上2,000フィートを飛行するという刺激的な行動を取りましたが、この件はその後発展することはありませんでした。

ミサイル防衛に関して、中欧で米ロ間に緊張がある中で、オバマ政権は緊張緩和を図る政策を取っていますが、その一方で中欧のミサイル防衛に関する施策を逐次実施しています。米国防省によれば、米軍はポーランドに10機の戦闘機とレーダーシステムを配備するなど、ミサイル防衛に関連した幾つかのオプションを実行しようとしています。中欧に対するミサイル防衛システム配備に強く反対するロシアは、軍事活動でこれに応えていると言えましょう。

今朝の産経によれば、ベネズェラがロシアからの戦車調達を増やすとのこと、隣国コロンビアが米軍へ基地を提供するなど親米的姿勢を強めていることに反発しています。昨年ロシアは太平洋艦隊の戦闘艦1隻をパナマ運河経由でベネズェラへ派遣しました。ベネズェラとの共同演習を行うためでしたが、これはロシア海軍が冷戦終結後始めての西半球における活動であり、かつパナマ運河を通過したのは歴史上初のことだそうです。

ロシア原潜の活動の活発化、南米の親ロシア国との軍事交流など、冷戦を思い起こすような事象が始まっています。その一方で核削減条約STARTで米ロは合意し、オバマ政権が唱える核のない世界への道の最初の一歩を踏み出しました。その中で、米国が中欧へミサイル防衛システムを配備することと、核軍縮とはどう結びつくのか、理解するのは難しいことです。

核軍縮が進めば、核の傘は一層不安定化するのは必然です。わが国にしても、北朝鮮の核に対しては自力では無力、米国の核の傘の大きさが気になります。


8月6日
笑顔の金正日、厳しい表情のクリントン元大統領、産経は北朝鮮が公表したこの写真について「金総書記が余裕の表情で米国の元大統領に応対し、対等以上に渡り合っている様子がにじみ出ている。」と書いています。そのように見える写真が北の狙いであることは明らかですから、日本のマスコミがその狙いに乗ることは避けなければなりません。

あの場面でクリントン氏が笑顔を見せられるかと言えば、答えは否です。北朝鮮はクリントン氏が謝罪したと言い、米政府はそれは無かったと言います。オバマ大統領のメッセージを受けたという北、それはないという米政府。拉致された記者二人の解放に絞った交渉をクリントン氏が私的に行ったという立場は何としても米政府は守らなければなりません。

健康を不安視されている金正日としては、健在を示し、米国の元大統領という大物を謝罪のため訪朝させ、それに寛大に応えたというパフォーマンスを見せれば、指導力発揮のエネルギーを得られます。苦しくても笑顔で応対しなければなりません。

オバマ政権が北に強い姿勢を取りつづけたことが、今回の北の譲歩に等しい行動になったと感じます。しかし、孤立し、苦境に陥った北朝鮮がその打開策としての米朝交渉への願望がすぐに叶うとは思えません。核廃絶を唱えるオバマ大統領が、新たな核保有国を認めることはできませんから、核放棄を前提とした交渉でなければ、オバマ政権は受けないでしょう。北朝鮮は核保有は政権を維持する上での切り札、核に関しては米朝両者に合致点はありません。


8月5日
突如クリントン元大統領が訪朝、拘束されていた米国人記者2人が恩赦という形で解放されました。クリントン氏は、記者解放が目的ということでの訪朝でしたが、これが真の目的であるなら、牛刀をもって鶏を割いたように見えます。米国の元大統領も軽く扱われたもの、北朝鮮の面子を保つために、米国がこれほど譲歩するとは思いませんでした。

米国が人質を取られて脅迫を受ける状況は、これまでも何回か起きています。古くは1968年のプエブロ事件があり、この時は北朝鮮が用意したスパイ活動を認める謝罪文章に調印し、乗員82名が解放されました。拿捕された時のプエブロ号の位置は、米国は領海外、北朝鮮は領海侵犯だとし、双方の主張は食い違っていました。

1972年のイランにおける米大使館員の人質事件は、救出作戦の失敗という経緯をたどり、最終的にはパーレビ前国王の死去があったために両国が解放に合意して解決しました。

最近では、海南島沖で米海軍のEP-3Cと中国海軍戦闘機が衝突した事件で、米軍機が海南島へ不時着、乗員が中国に拘束された事件がありました。この事件は明らかに領海外で起きたのですが、中国側は排他的経済水域内で米軍機は活動するのは不法だと主張、最後には米国が謝罪して乗員と機体が解放されたのです。

これらの経緯を見ますと、米国は人質を取られた場合に、相手国が強硬な態度で出ると弱気になる傾向が見られます。今回も、米国は当初米人記者2人は国境侵犯をしていないと主張し強い姿勢を取ると思われましたが、その後軟化、恩赦を得る方向へ舵を切りました。

この状況で考えなければならないのは、オバマ政権になってから、対北朝鮮政策がかなり強硬なものと変わっていたことです。クリントン国務長官が、ASEAN地域フォーラムで、「もう北朝鮮に友人はいない」と言い、米国の政策で北朝鮮が孤立を深めているという認識を示しました。四面楚歌の状況に陥っていた北朝鮮が、大物のクリントン氏の訪朝を要求し、なんとか面子を保ちながら困難な局面を打開したいと考えたとするなら、オバマ政権の方針は正しかったのです。

気になるのは、記者の解放の見返りが何であったかです。今のところ報道ではこの点が伝えられていません。友人がいないという苦境から脱したいという北朝鮮の願いが少しでも叶うのか、或いは大物クリントン元大統領の訪朝を獲得し、面子が保てたという収穫だけで満足するのか、それとも米朝交渉が始まるのか、今後の推移を見なくてはなりません。


8月4日
今朝の産経「正論」は、西原正氏の「中国の台頭が生む媚中的世界」を掲載しています。ウィグル族が過酷な弾圧によって益々悲惨な状況に追い込まれていますが、各国の対中非難の声は中国政府の圧力で消え掛かっていると西原氏は指摘しています。

日本政府の対中弱腰外交は既に定着していますが、西原氏も指摘しているとおり、ここ数年、人権問題で対中非難を繰り返してきたサルコジ仏大統領、メルケル独首相など錚々たる西側指導者たちまでも媚中的姿勢を見せるようになってしまいました。それに、ブッシュ前大統領も与しています。

その原因は、西原氏は中国の報復によるものだと言います。確かにその一面はありますが、中国は軍事力ではなく、経済、外交などの力で中国非難の声を封じ込めているところに注目するべきです。その上で、中国は肝心の場面になるときつい反応を見せて相手を尻込みさせてしまうのです。

米国で起きた黒人のゲーツ教授に対する警察の逮捕事件、警察のやり方を非難したかに見えたオバマ大統領の言葉が、非難の的となりました。オバマ大統領は非を認め、ホワイトハウスの庭にその時の警察官とゲーツ教授を呼んでビールパーティを開き、和解をPRしました。この事件は、米国における人種差別問題が黒人大統領の誕生によってでも薄まることにはならなかったことを示しました。

仏では旧仏領の植民地からの移民によって生ずる問題が、独では主としてトルコからの出稼ぎと移民による社会の変動が問題となっています。英国ではパキスタン出身と見られるテロリストの活動があり、大量テロが未然に防がれた事件などが発生しています。

このように西側各国も人種問題では悩みが深く、中国の少数民族迫害を強く非難するには身内に弱点を持っていますから、どこかで矛を収めてしまう結果になります。まして、対中貿易は各国ともに重視せざるを得ませんから、媚中姿勢は世界に蔓延するばかりです。

F-22生産中止は、オバマ大統領の対中外交への配慮があったためという推測が現実性を帯びてきたと昨日書きましたが、それが当たっているならオバマ政権も対話を標榜する媚中であり、同機の対日供与はあり得ないことになります。


8月3日
今朝の産経に掲載された石原慎太郎氏の「日本よ」は「国家の真の再生のために」という表題でした。米国は日本の安全を保証してくれる筈がない、という強烈な思考をもって論を組み立てています。

石原氏は「冷戦構造下に核の抑止力を期待して始まった日米安保は、私がかねがね指摘してきたように、彼等の核戦略機能からして、その当初から抑止力などありはしなかった。」と述べ、更に、「たとえ彼等(中国)の覇権主義がこの国の領土にも及ぼうとしても、保護者であるはずのアメリカは決して本気で身を乗り出すことはありはしまい。」とまで言い切っています。

石原氏は著書「NOと言える日本」で、対米関係は日本独自の道を歩むべきだと主張しましたが、その信念は益々固くなって来たように思います。氏は、民主党が示したマニフェストに「日本に米国が多く保有している基地についての洗い直しと、地位協定の見直し」とあることに興味があると言います。横田基地の共同使用を強く主張し続けて来た石原氏は、このマニフェストに共感を覚えるところがあるのでしょう。

さりとて、日本政府が本気で地位協定の見直しや基地洗い直しを米側と交渉しようとすれば、日米関係は疎遠どころか険悪なものとなりそうです。今朝の産経に古森記者が報ずるように、民主党のマニフェストには米側の多くの人達が懸念を表明している現実があります。

オバマ政権が対日関係をどう運営しようとしているのか、麻生総理を政権最初の外国首脳の訪問者に選択するなど、配慮を示しているように見えますが、実態は少し違うのかも知れません。先般行われた米中戦略経済対話を見ますと、オバマ大統領は米中関係は21世紀を形づくる重要な2国間関係だと述べていますから、少なくとも東アジアでは日本の席次は下がっているのです。

F-22の輸出型を生産して対日供与すれば、日米安保体制は強化され、米国の雇用状況を回復させ、関連会社は利益を得ます。日本は防衛力が強化され、中国の軍拡にも相当程度対処できるようになり、日本の対米信頼は増します。にもかかわらず、F-22生産中止は、オバマ大統領の強い意志で決まったかに見えます。この決定に、大統領の対中外交への配慮があったという推測は現実性を帯びてきました。


8月2日
今朝の産経「仕事人」欄に陸自特殊作戦群初代群長・荒谷卓氏(49)が取り上げられています。国民の自衛官を選び表彰している産経ですから、これに類した記事かと思いましたら大違い、荒谷氏は陸自における赫々たる経歴を捨てて退官した人物でした。

記事には、荒谷氏は7年にドイツ留学。独陸軍特殊部隊「KSK」の創設期で、部隊の立ち上げを学んだ。翌年帰国すると、特殊部隊の編成案が持ち上がっており、陸幕で部隊編成に奔走した。陸自きっての特殊作戦の専門家との評も定着。米陸軍特殊部隊「グリーンベレー」への留学生として白羽の矢が立ち、ノースカロライナ州の基地で1年間、作戦立案から戦技まで余すところなく吸収した、と書かれています。

その荒谷氏が何故退官したのか、「政治的にいつでも運用できる能力を備えても、それに見合った任務に使う気構えがない」という自衛隊の姿勢に違和感が高まったのがその原因だと言います。「戦う自衛隊」、から「戦える自衛隊」という目標が指揮官達から言われるようになり、このことは実践経験がない自衛隊が本当に戦えるのかという思いが自衛官の内心に皆無ではないことを示しています。

私の拙い経験で、米軍との共同演習などで、彼らと我が方の最も大きな差は、彼らがいつも生命の危険がある場に投入されることを覚悟しており、我にはそれが欠けていることでした。彼らとの懇親パーティの席上、飾られたカーネーションの花を一口でパクリと食い、無事帰還した時にこうやるのだと言ったのはベトナム戦争当時の米軍パイロット、試してみると白のカーネーションは何とかなるが、赤の花はとても食えたものではありません。

松島悠佐氏が「内側から見た自衛隊」などの著書で自衛隊が戦えるにはほど遠い状況を指摘しています。これは主として法制面などの縛りの実情を書いたものですが、精神面においての戦闘力はどうなのでしょうか、現状が気になります。


8月1日
米国内におけるF-22に関する論議がほぼ終了し、米空軍向けの継続生産は行われないことが決まりました。輸出型の同機の生産についても、僅かな可能性が残るだけとなり、空自の同機の取得は極めて難しい状況となったと言えましょう。

何故米国でF-22の生産が中止されたのか、幾つか理由があります。ゲーツ国防長官の説明によれば、「同機は米国が戦うかも知れない戦争には役立たない戦闘機であり、これは今も未来も変わらない。1980年代には強力な敵の戦闘機に対抗するようデザインされていると考えられていたが、今や戦闘のあらゆる局面で適切な働きをするとは考えられない。」と述べ、その代替えは無人機が担うことができるとしています。更に、ゲーツ長官はF-35を推奨する理由として、同機はF-22より10〜15年も設計思想が新しいことを挙げています。

オバマ大統領も「我々はF-22を必要としない。既に決まった187機以上の取得には拒否権を行使する。」と言明していますから、ゲーツ長官の言動はオバマ大統領の意を受けてのものとも考えられます。

高価なF-22の取得には財政的にも困難があることが今回の処置の裏にありそうです。大統領専用ヘリコプターが老朽化し、更新する計画がありましたが、大統領はこれを止めています。また議会が求めているC-17輸送機、F-18戦闘機、VIP用の輸送機などの調達を見直し、来年度予算に反映させるゲーツ長官の意志があります。

これらの米国の動きを、空自のF-22取得に関心を持つ私どもも慎重に検討する必要がありそうです。米国防省が何故F-22は不要だというのか、その代替えとされるF-35やUAVは日本の防衛にも米国と同じような思考で良いのか、或いは輸出型のF-22の生産をするよう米政府に要請してゆくのか、正念場にあると思います。