平成21年9月中旬の記事




9月17日
日本の政権交代劇に見とれている間にも、世界情勢は動いています。イランの核開発について、6月にIAEAはイランがウラン濃縮を拡大しており、ナタンツの遠心分離機は7000台体制になり、うち5000台がフル稼働していると報告しています。「既に核兵器一個分に相当する低濃縮ウラン」を生産したとの見方をする専門家もいます。

イランの核の脅威を最も受けるのがイスラエルです。かつてイラクのオシラク原子炉攻撃を行った実績がありますから、今回の核危機にも同様な対応を示すのではないかという見方が確実に広がっています。

これまでの経緯で目についたものを拾って見てみますと、昨年10月、ベルナール・クシュネル仏外相は、訪問先のイスラエルで、イランが核兵器を開発する前に同国を攻撃する可能性があると警告しました。訪問した国でこのような発言をするのは異例のことです。

今年になって4月、 中東地域を管轄する米中央軍のペトレイアス司令官は上院軍事委員会に提出した書面で、イランの核兵器開発を阻止するために、イスラエルが最終的に核施設への「先制攻撃」に踏み切る可能性があるとの見方を明らかにしました。

5月には、米国CIA長官がイスラエルへ秘密のミッションを送り、イランを攻撃しないよう警告したと英タイムズ紙が報じてます。

6月にはイスラエルがイランの核関連施設を空爆で破壊することを想定して大規模な軍事演習を実施していたと米ニューヨーク・タイムズ報じました。これに対し、イランのサレヒ原子力庁長官は年次総会での演説で、「イランは核施設に対する脅威を受け続けており、いかなる軍事的攻撃からも自国を守る用意がある」と述べ、イラン核施設を想定した空爆演習を行ったイスラエルをけん制しました。

ここまでは、イラク攻撃をする気配を見せるイスラエルに対し、米国が押さえにまわり、イランも反発するという構造でしたが、9月15日付けのウォール・ストリート・ジャーナル紙は Obama Is Pushing Israel Toward War という見出しでオバマ政権がイスラエルに対しイラク攻撃を裏からけしかけているという趣旨の記事を配信しまた。

イランの核開発の進展状況は正確なところは分かりません。今月2日には、 エルバラダイ・IAEA事務局長がイランの核開発は誇張されており、明日にも核武装されるかのように評されるのは根拠が無い旨コメントしています。このように、イランの核については施設の攻撃の有無、関係国間のせめぎ合い、疑念、裏工作、情報工作、報道陣へのリーク等々何が本当なのか分からない混沌とした状況にあります。

12月には日本人として初めて天野之弥氏がIAEAの事務局長に就任しますが、その責任は大変なものと思います。イランや北朝鮮に限らず、核拡散が拡大しないようしっかり仕事をすることを期待します。


9月16日
今日は鳩山内閣発足の日ですが、昨日に続いて亀井静香氏について。朝日の報道によれば、鳩山代表は亀井氏を防衛大臣にあてるという秘策を温めていたが、土壇場で断念したとのこと、その原因が鳩山・小沢一郎会談で小沢氏側から懸念が出たからだそうです。

亀井氏は「月刊日本」7月号の対談で「私今回の訪米で米側に(民主党)新内閣は新しい関係を求めると通告してきた。亀井静香を暗殺しない限り、アメリカの思い通りにはならないと告げてきたのだ。」と書いているそうです。このような激しい言葉を使うのは亀井氏一流のやり方でしょうが、外交的には極めて不適切としか言えません。

昨日の本欄で、亀井氏について「亀井氏のこれまでの言動は激しいものがありましたから、民主党政権は火種を抱えることになりそうな気がします。」と書きました。亀井氏を防衛大臣にあてるのが鳩山代表があたためてきた人事であるなら、鳩山人事構想は危ういところを小沢氏に救われたのかも知れません。更に、国の基本政策の一つである防衛を他党に任せることを考えていたなら、鳩山氏の政治家としての資質を疑いたくなります。小沢支配が党を覆う民主党ですが、小沢氏の政治的嗅覚が亀井防衛大臣を拒否したと感じます。

今朝の産経「正論 世界の平和維持に責任持つ国に」に元駐米大使 加藤良三氏が次のように書いています。「対米コンプレックスがDNAに染み込んだ日本の「知識人」多数は、対米同盟の傘の下で、それとは両立しない「中立主義」「孤立主義」の幻想を言い立てる。」

民主党は対米関係を対等なものとするとマニフェストに書いていますが、防衛に関してはこれまで一貫して米国の傘の下にあり、これからもこの状態から抜け出すことは余程の覚悟をもって、革命的な変革をしなければなりません。加藤氏が言うところの対米コンプレックスがあるがために、情勢が正しく見えない人達が沢山いるのです。


9月15日
民主党政権の閣僚人事が今日行われるとのこと、我々の関心の焦点の1つである防衛大臣には国民新党の亀井静香氏の就任が有力だそうです。これが本当であれば、民主党に対する期待は色あせるものです。国防という国家の重要施策を連立与党の人物に託そうというのですから、民主党の防衛政策に対する比重はこの程度のものであったのかと感ずるのです。

圧倒的多数を獲得した党ですから、連立を組む相手から起用する閣僚は比較的軽いポストであるべきですが、今回はそうはなりそうもありません。

亀井氏自身については、先月、ホームページ掲載の「亀井静香はこう思う」に「目を見張るような復興を遂げた日本が、現在は自ら平和を守る努力もせず・・」と書き、平和惚けの状況を憂いていますが、その防衛政策の方向は見え難いものがあります。自衛隊のイラク派遣の法案採決の時には退席、反対の意志を表明しました。

この際に、亀井氏は何故退席したかの見解を次の様に言っています。「戦火の中に同盟国である米国を支援するために入るのであれば、自ら守れる体制をとり集団的自衛権の行使について政府見解を変更し、国会で議論した上で法的根拠を明確にして派遣すべきである。」更にサマワで活動する陸自隊員について「異国にて 任務に励む 我が同胞 何はともあれ 無事を祈らん」という短歌を発表しています。

国民新党の公約を見ますと、外交防衛政策では「新日米同盟の締結、米軍再編の見直しに向けて、新しい日米関係のあり方を追求します。」とあり、民主党のマニフェストとの共通点が見えます。米国防省報道官が米軍再編に係わる日米間の約束は守るべきだと民主党を牽制しましたが、国民新党も米軍再編については同じ路線を進んでいると思われます。

新外相に内定している岡田克也氏が解明を進めるとしている日米核密約について、亀井氏は先月の日本外国特派員協会での講演で「密約の件は日米間に同盟関係がある以上、日本の国是を尊重し、守ってくれるという信頼関係の下で追求するべきではないと考えます。 」と言い、自民党政府のこれまでの主張を認めるような趣旨の発言をしています。

このように、亀井氏には自民党政権の政策の流れを汲むところと、対米関係で日本の主張を強めるべきだとするところが共存しています。即ち、民主党の主張とは相いれないところがあるのです。亀井氏のこれまでの言動は激しいものがありましたから、民主党政権は火種を抱えることになりそうな気がします。鳩山氏の閣僚人事もおかしなことをするものです。


9月14日
不順な夏が過ぎ、大雪山が例年よりは12日早い初冠雪、房総マザー牧場のコスモスも例年より10日ほど早い見頃だそうで、今年は秋が早い気配がします。今朝の産経抄はサンマを話題に取り上げ、サンマを焼く煙で大騒ぎになる落語「サンマ火事」の話からサンマのワタの味まで書いています。

このところ、サンマを焼く煙どころか、煙の匂いを嗅ぐことも殆どなくなりました。どの家庭でもガスレンジかIHヒーターで殆ど煙も出さずに焼いているのです。でも、昔の炭火コンロで焼いたサンマの美味しさは忘れられません。煤がついて黒く焦げたサンマの味は昔の台所の煙の味、便利さに慣れた最近の若い年代の人達には理解できないであろう味です。

腹がくちくなったら、運動しなければメタボになります。友人に自転車でシルクロードを区分けしながら走っている人がいます。先頃、トルコをイスタンブールから東へ向かい、トルコ東端のアララト山麓まで走ったとか、直線距離で1300Km、トータルで2000Km以上も走ったことになるそうですが、途中でタイヤを代える時に安い中国製は3日も走ると駄目になってしまうそうです。

今、米中間でタイヤ論争が起きています。米国が安い中国製タイヤに業を煮やし、高い関税を掛けると決めたところ、中国が大反発、米国製の自動車の一部と鶏肉製品に対する反ダンピングと反補助金で調査を始めると発表し、貿易戦争の様相を呈しています。米国では中国製タイヤの耐久性など問題になっていないのでしょうか。あるいは、中国は米国へは丈夫なタイヤしか輸出していないのかも知れません!


9月13日
民主党は、予算の骨格や外交方針を扱うとされているが国家戦略局を新設するとしていますが、この「国家戦略局」という言葉に違和感があるということを言っている人が何人かいるのを見聞しました。私どもは自衛官として国家とか戦略という言葉は日常茶飯事で使っていましたから、なるほど、市井の人達の中にはそのような言葉を拒否する人がいるのだと改めて感じます。

今朝の朝日のコラムに、歌人の道浦母都子さんが「戦略はともかくとして、国家なる言葉から想起されるのは、国家総動員法、国家非常事態といった、かつての暗い時代の記憶を引きずるものがほとんどである。」と書いていますが、国家とはそんな悪い印象を持たれている言葉なのでしょうか。理解に苦しみます。

このような感じ方は日本独特のものでしょう。米国の国家安全保障会議(NSC)は米国の最高意志決定機関の一つですし、中国の行政組織も国家という名称がついた機関は数える暇もないほどです。国民の中にある国家とか戦略という言葉に対する一種のトラウマが民主党の国家戦略局という名称で払拭されれば、これはこれで思わぬ効果があったということになります。

肝心の国家戦略局ですが、2007年には経済同友会が「国家戦略本部」の新設を提案し、「外交戦略、経済成長戦略、安全・安心生活戦略などの重要な国家戦略を担う機能については各省庁から移行し、組織横断的に企画立案・調整が可能な組織として位置づける。」とし、また2005年に経団連が「内閣府機能の強化と省庁縦割りの排除」という提言をし、国家戦略局と同じような趣旨の組織を作るよう要望しています。

このような提言が行われたということは、経済団体が現在の縦割りの行政組織に対し、強い不信感を持っていることを示すものです。民主党の国家戦略局がこれに応えるものか、まだよく分かりませんが、縦割りによる効率の悪さは皆が認めること、国家戦略局がしっかりした方針で国家戦略を推進して行く組織になって貰いたいものです。


9月12日
国家基本問題研究所が「新政権は北朝鮮急変事態に備えよ 韓国による自由統一推進を戦略目標とし中国の半島支配を防げ」という提言を発表しました。同研究所は桜井よし子氏が理事長を務め、石原都知事を始めとする右派論陣が加わっています。

今回の提言は、金正日の健康状態から見て、北朝鮮の崩壊が近い将来に予想されるところから、日本もその事態に備えなければならないとしています。特に注目されるのは、米韓軍の北進、中国軍の介入などが準備されているという情報です。

同提言によれば、米韓軍の作戦計画については、北朝鮮緊急事態に対応する5029、北朝鮮の核施設などをピンポイントで攻撃する5026、北朝鮮軍が南進してきた場合に迎え撃って米韓軍が北進する5027、5028は欠番、5030は米軍単独で行う対北朝鮮心理作戦があると紹介し、盧武鉉政権当時停滞していた計画作成が李明博政権によって進み始めたとしています。中国軍については、同提言は秘密派兵計画が存在するといい、同研究所が近く詳細を発表するとしています。

このよう状況から、同研究所は、「日本は韓国による自由統一推進を戦略目標として、政府や軍(自衛隊)などで日米韓対話を進める必要がある」と述べ、韓国の主導による半島の統一が日本の国益に則した戦略目標とするべきであり、仮に中国主導の政権が北に成立するような事態は絶対に避けるべきだとしています。

金正日の健康は何時悪化しても不思議ではありません。北朝鮮の混乱という日本にとっての緊急事態は、得てして政治が機能していない時などに起こるものです。

衆院解散から今月16日の新内閣成立までの長期間は政治不在の緊急時でした。更に新政権成立後もかなりの期間続くであろう政治機能不全の状況もあります。或いは、阪神淡路大震災の際の村山内閣のような、有事への関心を持たなかった為に多くの生命が失われた事例もあります。

マニフェストで見る限り、民主党政権に有事への対策は重要な政策として提示されていません。政権に就けば、否応なしに対応を迫られるのが国内外の有事です。朝鮮半島に関しては、親北の勢力が政権に加わりました。連立への協議でも、北朝鮮への圧力政策は回避するべきだと社民党は主張しました。心の底には、統一は北主導でなされるべきだと考えているに違いありません。民主党政権はよほど褌を締めて現実的な政策を実行して行かないとならないと思います。


9月11日
中国が嫌う指導者たちの来日が続いています。先ず世界ウィグル会議議長のラディア・カーディル氏、ウルムチにおける騒乱直後の7月末から8月に掛けての来日でした。次が台湾の李登輝氏、9月4日に来日、各地で講演会を開くなど活発に活動し、10日に離日しています。次に予定されるのがチベット仏教の指導者ダライラマで、11月の訪日が予定されています。台湾、ウィグル、チベットと中国が敏感に反応する地域の指導者たちが相次いで来日するのですが、これまでの日本政府の姿勢を考えると、どう考えるべきなのでしょうか。

ラディア・カーディル氏は「今回の日本訪問で、日本政府がビザを発給したことは、ある意味で私たちへの支持といえるだろう。悲惨な状況を理解し、われわれの主張を日本のみなさんに伝える道を作ってくれたことに感謝している。」と述べ、日本政府の処置に感謝しています。

李登輝氏は再三訪日していますが、中国政府はその度に日本政府に不快感を示し、同氏が政治活動や講演を行わない様釘を刺してきました。ところが今回は都内や地方で講演会を開くなど、これまでより自由な活動が行われています。

ダライラマは昨年11月にも来日していますが、中国の抗議が効いて政府はラマを冷遇、マスコミも訪日を取り上げることはありませんでした。今回はどのような活動が行われ、どのように報道されるのか、民主党政権の対応が注目されます。

衆院選の民主党圧勝に対し中国がどう対応するかは注目されるところですが、ダライラマの処遇を民主党がどうするかもその一つです。2007年、鳩山氏はダライラマと会談し、中国に求めている「高度な自治」を支持する考えを表明しました。これに中国は抗議し、民主党は「鳩山氏の個人的な会談であり、チベット独立にコメントする立場にない」と釈明した経緯があります。

ラディア・カーディル氏と李登輝氏へのビザ発給は自民政権が行ったものでしょうから、自民政権の対中姿勢は明らかに変化しています。国民の信頼を失い、政権も失った麻生氏ですが、対中姿勢という面ではしっかりしたところを見せています。

ダライラマに対する民主党政権の対応がどうなるのか、民主党は昨年の来日で上記の醜態を見せていますから、中国から抗議されると入国拒否などがあり得るのではないかと懸念しています。