平成21年10月初旬の記事




10月10日
オバマ大統領が今年のノーベル平和賞を受賞しました。サプライズでした。ノーベル賞は各分野で実績を積み重ね、優れた功績を挙げた人に授与されるものと思っていましたが、今回はそうではなかったようです。ノーベル賞委員会は、「核兵器のない世界に向けたオバマ氏のビジョンと働きに特別な重要性があることを認める。」と受賞理由を述べていますが、これを見ても将来への期待値の部分が大きいと見られます。

大統領就任後1年に満たずの受賞には、違和感が無い訳ではありません。受賞は尚早であるとの見解を示した人も多くありました。ノーベル賞委員会も当然そのところは検討した上でのことでしょうから、核廃棄への期待がそれだけ大きなものであることを示しているものと思います。

核兵器の無い世界とはどのような世界か、核兵器の恐怖におののくことのない一つの理想化されたユートピアのようなものと思われます。しかし、現実は核保有国が核兵器を全部廃棄することなど夢のまた夢、また核保有国になろうとする国は後を絶ちません。更に核兵器の製造技術は世界に拡散しています。核保有国が仮に核兵器廃棄をしたとしても、世界のどこかで核兵器が製造される可能性は残され、核によるテロや脅迫が起こらないとは言えません。

即ち、核兵器を無くした世界は核の恐怖から離脱できるのかと言えば、そうはならないのです。むしろ、核による抑止効果が薄れ、戦争を始めるスレッシュホールドが低くなる可能性が高いと思われます。核兵器が無い世界への展望をノーベル委員会に聞いてみたいのです。

受賞の祝辞を述べるべきところ、少々異見を述べてしまいました。ともあれ、大国中の大国、米国大統領が重要な軍事手段の一つを無くそうとした提言は重いものです。その勇気と決断こそがノーベル賞ものだったのでしょう。


10月9日
台風18号は駆け足で列島を通過しました。どちらかと言えば風台風の特徴を示し、各地に風による被害をもたらしました。八ツ場ダム建設予定河川の吾妻川と利根川の合流地点である渋川市在住の日野さんから、「風が少し吹きましたが雨は大したことなくて大臣にダムの必要性を判らせるほどには降りませんでした。」とのレポートを頂きました。

台風18号はダム建設の必要性を検証する事例にはなりませんでしたが、災禍は忘れた頃にやって来るものです。何とか補正予算を削り、マニフェストに描いた政策実現の予算をひねり出さなければならない立場の民主党政権ですから、長期的な視野を今求めてもその力は無いのかも知れません。しかし、良質な政治にはそれが無ければなりません。

今朝の産経は「岡田外相 心配な村山談話の絶対視」という社説を掲載しました。鳩山首相も村山談話を重いものだとの見解を官邸で記者団に示しましたから、友愛と村山談話とが相まって民主党外交の理念になるのでしょう。岡田外相は更に踏み込んで、言葉より行動だと言っています。どのような行動を具体化して行くのか、早急に国民のその方向を示す必要があります。

民主党はマニフェストに外交・安全保障については実質的なことは何も書いていませんでした。と言うより書けなかったというのが実態です。ダム建設中止に見られるような堅い方針と、五里霧中の外交・安全保障との政策の乖離は、国民に不安を与えるものと言えましょう。


10月8日
今朝の産経は北京大学哲学部卒の石平氏の「日本人に健全な国防意識必要」というエッセーを載せています。台湾で日本の統治時代を過ごし、日本の教育を受けた李登輝氏は、しばしば日本人は日本人としての心を失っているとの趣旨の苦言を呈してくれましたが、石平氏からも同様な苦言を頂きました。

石平氏は、エッセーの中で軍事パレードを見ながら思い出したのは「ある日本人の評論家先生と一緒に訪ねた、北京市内の中国人民革命軍事博物館のことであった。」と書き、博物館の展示についての所見を述べています。

一部を引用しますと、「「軍」と「戦争」に対してマイナスイメージを青年たちは決して持たないはずだ。おそらく彼らから見れば、戦争はむしろ称賛すべき「正義の行為」であり、軍は誇るべき英雄の集団であろう。このような戦争観と
軍に対する意識は、戦後六十数年間、わが国日本で流布しているものとはまさに正反対である。」と書かれています。

私も数年前にこの博物館を見学したことがあります。一人旅でしたので、ガイドも付きませんでしたが、その分時間の制約もなく存分に見ることが出来たと思っています。博物館へ行くには、天安門前の駅から地下鉄で軍事博物館前で下ります。15分程でした。石平氏が書いているとおり、展示は「兵器館」と「戦争館」とに分かれており、戦争館はさらに国内戦展示、坑日戦展示、古戦争展示と分かれています。私には兵器館は技術的な、また戦争館には人民解放軍の歴史と精神に興味が尽きませんでした。

博物館の戦史関係についての展示は、国民党軍との戦いに勝利したことを宣伝することにあるように感じられました。坑日戦争は国民党軍が主に戦いましたから、率直に言って共産軍の実績として取り上げるには足りないところがあるのでしょう。国民党軍との戦いの詳細な展示と比べ、抗日戦争の展示はごく少ないと言えるのですが、抗日戦争展示館という一角もあり、南京事件の展示があります。南京で戦ったのは国民党軍ですから、人民解放軍としての宣伝は虐殺を主とせざるを得ないのは皮肉なことです。

石平氏がいうとおり、同博物館は人民解放軍への誇りで満ちています。日本も同じように軍の戦いの歴史があった筈ですが、今その誇りは何処へ行ってしまったのでしょうか。帰化した中国人 石平氏に叱咤激励されるようでは、日本も落ちたものです。


10月7日
中国温家宝首相が北朝鮮を訪問、金正日総書記と一昨日に会談しました。温首相が今の時点で何故訪北したのか、腑に落ちないところがありますが、北朝鮮が国連の制裁措置によってかなりの苦境に陥っていることが背景にありそうです。

朝鮮中央通信が報ずる温家宝・金正日会談の出席者を見ますと、中国側が温家宝首相を始めとして、外相、外務次官、商務相、文化相、人民解放軍高官など、各分野の高官を揃えて臨んでいるのに対し、北側は総書記、外務次官、党部長など4名しか出席していません。中国側のテーブルにずらりと要人が並び、向かい側のテーブルには北の4人だけが座っている風景から何が見えるか、北朝鮮を中国側が説得し、六カ国協議へ復帰させ、その先にある核廃棄への道をさぐりたいという意気込みが見えるのではではないでしょか。

首脳会談の結果、金正日は六カ国協議への復帰を示唆したと伝えられます。「再び絶対に参加しない」と口を極めて言っていた北ですが、背に腹は換えられないのでしょう、温家宝首相との会談を奇貨に復帰に含みを持たせました。その前提が米朝協議の結果を見てからと金正日は述べましたが、これに対し、米側は厳しい対応を見せています。

オバマ政権はこのほど非核化の基準を六カ国協議参加国へ伝達しましたが、厳格なものです。即ち、兵器と核施設は全て解体廃棄、核物質はウラン、プルトニウムを含めて海外へ搬出するとし、これらは全て検証可能でなければならないとしています。苦労の末核実験をし、核保有国宣言をした北ですから、これを受け入れることは先ずは出来ない相談です。

米国とてイランの核問題もこれあり、北の核問題で譲歩の姿勢を見せることは出来ませんから、米朝交渉は厳しいものとなるのは目に見えています。


10月6日
猛烈な台風18号が近づいています。現在中心示度は920ヘクトパスカルで、本邦に近づく台風としては最強の部類に入ります。予報では8日頃に紀伊半島上陸し、その後本州縦断という最悪の経路になっています。各家庭でも厳重な警戒と災害対策が必要と思います。

八ツ場ダム建設のきっかけの一つがカスリーン台風による首都水没でした。現在の首都圏の治水の基準とされるピーク流量は、カスリーン台風洪水時に実際に観測された流量を採用して設定されているそうです。民主党のダム建設中止の理由の一つが、このダムによる治水効果が認められないということにあります。

それでは、カスリーン台風とはどんな台風だったのでしょうか。この台風は本邦南岸に接近し、房総沖へと抜けた上陸しない台風でした。中心示度は最盛時で960ヘクトパスカル程、台風としては中程度の強さだったのです。カスリーン台風で首都圏に洪水が起きたのは、この台風がいわゆる雨台風で、前線を刺激し、接近以前から雨が続いていたことがありました。

八ツ場ダムの治水効果について資料に当たりますと、信じられないようなことがあります。豪雨災害に対処する河川や砂防といった治水に関する基本計画立案の現場では、気象に関する知識は必要とされておらず、河川や砂防はあくまでも林学、河川工学の領域なのだそうです。

最近の日本の雨の降りかたを見ますと、局地的な豪雨が頻発しています。災害の起こりかたが以前とは変わって来ているのです。幸か不幸か関東ではこのような豪雨による災害は最近起きていませんから、洪水に対する関心は高いとは言えません。利根川水系の近年の洪水は、台風による小貝川の氾濫が昭和56年に起きたのが最後です。

今近づいている台風18号は、予報が当たるとすれば、八ツ場ダム建設が予定されていた関東北部を通過します。また既に昨日から本邦南岸で雨が続いており、洪水による災害発生の環境は整っていると言えます。災害は人知が及ばない状況で発生します。八ツ場ダムの治水効果が有無が実際に検証される絶好の機会となりそうです。


10月5日
今朝の朝日 GLOBE(特別紙面)に「中国海軍大国への胎動」が3頁にわたって掲載されています。最初の部分はネットでも読めますが、上海沖の長興島が空母建造の基地となっており、そこへ峰村記者が潜入し、厳重な警戒下にある造船所付近を取材した様子が書かれています。

長興島をGoogle Earth で見ますと島の南東部分が巨大な造船基地となっており、部分的な写真も見ることができます。長興島は東西27キロ南北数キロの小さな島ですが、その北側の崇民島には空軍基地があり、上海エリアの防空に当たっており、防衛上も枢要なエリアとなっています。

朝日の記事によれば、空母建造は中国にとって当然の成り行きであり、軍部は胡錦濤主席でも空母建造の流れを止めることはもはや出来ないと豪語しているそうです。これまで中国の空母保有の目的については、西太平洋や南シナ海への海軍力の進出を図り、周辺諸国への影響力を高めることが目的であろうなどと分析されていますが、現状を見ると空母を保有すること自体が自己目的化しているのではないかと感じられます。

米海軍の空母も、これまではその威力を十分に示して来ましたが、最近はその脆弱性を指摘する見方が多く出ています。ましてや、米海軍とは比較にならない中国海軍の空母護衛態勢では、いざ戦いと言う時にはシッティングダックとなる運命にある可能性が高いのです。とは言うものの、平時においてはその存在感は巨大なものとなり得ます。中国の空母が日本の太平洋岸を遊弋し、マラッカ海峡からインド洋まで進出すれば、日本や周辺国への影響力ははかり知れません。

朝日の特集記事では、鳩山政権の中国海洋パワーへの対策は不透明感がただようとし、マニフェストには「中国・韓国をはじめ、アジア諸国との信頼関係の構築に全力を挙げる」としか書かれていないと、不満を示しています。東シナ海を友愛の海としたいと鳩山首相は胡錦濤主席に述べたそうですが、胡主席は東シナ海は中国が勢力を振るう海だと思っているのです。その手段の一つが空母であることは間違いありません。


10月4日
今朝の産経は「土日に書く」欄に木村ロンドン支局長の「核先制使用の危うさ」というエッセーを掲載しています。その冒頭に衝撃的な話が書かれています。

英歴史家ピーター・ヘネシー氏の著作『秘密国家−英官庁街と冷戦』に、ブレア首相が就任時に国防省スタッフから手渡された核搭載原潜への封印命令の話があります。核攻撃などで英国が壊滅した時、(1)米国がまだ存在している場合、米国の指揮下に入れ(2)オーストラリアが存在している場合はそちらに向かえ(3)第一撃を英国に加えた国の首都に報復攻撃を行え(4)自らの判断に従え−という4つの選択肢から1つの指令を選択、艦長へ手渡しておくようブレア氏は言われ、顔が血の気を失ったのだそうです。

核のボタンを握る国の指導者たちは皆、このような重圧と戦っているに違いありません。核のボタンを押すか押さないか、先制にしろ報復にしろ多くの人を犠牲にすることが確実な手段を行使するのは、人間としての倫理にもとることです。

仮に英国首相の立場にあるとしたら、どの選択肢を取って封印命令を下すのか、上記(3)の命令を選択するには相当の決意が必要でしょう。艦長の立場で(4)の命令を受けていたらどう行動するか、これも平素から頭を鍛えておかなければなりませんが、いざとなったらどう決心できるか、悩みは尽きないでしょう。

核抑止とは、このような人間心理の複雑かつ不安定な綾の上に乗ったものであると思います。そして、核の傘は更に他国のために自国の被害を覚悟した上で核を使うぞという、核抑止の更に一段上にある概念です。

上記木村支局長は、岡田外相が米国に対し、核の先制使用をしないことを求めていることを批判し、もし米国がこれを受け入れれば日本の安全保障に大きな穴が開くことは間違いない、と書いています。米国が核を使わないことが分かっていれば、どんな手段を使っても大丈夫だと侵略国は考えるだろうから、という論理です。

ブレア首相の顔真っ青の話で思い起こすのは、半世紀前の映画「渚にて」でした。核戦争に関する人々のイメージの中には、この映画などによる核戦争の状況が大きな影響を与えているように思います。この映画には、核抑止理論は働かなかったと言う前提があります。

勿論、映画の世界と現実とを混同してはなりません。しかし今夏以来、米国は日本に対し、核の傘は有効に働いているということの説明を盛んに行っています。その説明が必要だということは、説明しなければならない程に不安定なものであることの裏付けでもあります。


10月3日
昨夜の五輪総会で、東京は2016年のオリンピック招致に失敗しました。ここに来てマスコミも急に盛り上がりを図りましたが、是非東京招致をという雰囲気は一部に止まり、俄作りの感は否めませんでした。大方の国民の間では、招致に成功する確率は低いだろうと感じ取っていたと思います。

IOCが2月に行った東京での世論調査で、五輪開催支持率が56%、読売4月に行った調査で開催支持は76%でした。ところが、ライブドアが1月に実施した世論調査で開催支持は、たったの32%だったのです。どれが本当の世論を表しているのか分かりませんが、年初頃には国民が殆ど関心を持っていなかった状況がありました。

最初の投票でシカゴが落選したのは驚きでした。オバマ大統領も開催国が決まる五輪総会への出席を予定していなかったそうですが、急遽出掛けたのは、鳩山首相の場合と似通っていたのです。シカゴが住民たちの支持が万全でなかったことも東京と共通していました。

東京招致が失敗したことで、私など高齢世代には元気な中に五輪を国内で見ることは叶わなくなりましたので、一抹の淋しさはあります。それはさておき、国際的な関心事で世界各国に受け入れられるにはどうすれば良いか、何に重点を置くべきか、どのように運営するべきか等々、今回の招致失敗は外交の進め方にも大きな教訓を与えたものと思います。先年、安保理常任理事国入りにも失敗した日本です。この二つの失敗には共通点があるように思われます。


10月2日
国慶節の軍事パレードにどのように行われたのか、ニュースを注視していましたが、詳細にわたる画像は放映されませんでしたし、YOU-TUBEで捜しても見つかりませんでした。中国当局がしっかりと報道規制をしていたのでしょうか、各国の記者たちには見物席を設けていたらしいのですが、詳細な報道を見たいものです。

ネット上では、人民網が空軍関係の写真を8枚、掲載しています。写真で見るAWACSは母機がIL-76に見えます。給油機は旧ソ連のバジャーを給油型に改装したH-6U、翼端から給油パイプを出す旧ソ連の伝統的な給油方式です。この給油方式は技術的にはかなり難しく、旧ソ連時代にベトナム往復のバジャーが給油失敗で引き返す事例もありました。中国は給油機としてIL-78を購入する計画をもっていましたが、これはうまく行かず、まだ入手できていません。

編隊飛行を披露した殲11はSU-27のコピーで国産だとされていますが、これを国産と宣伝するのは少々おこがましいと言えましょう。

H-6Uから受油する戦闘機ですが、機種はFC-1に見えます。この戦闘機は純国産と言えましょうが、もとはと言えばMIG-21で、これに大幅な改装を加えたものです。

このように見ると、中国独自で最初から開発した機体はなく、コピーか改装です。中国航空機産業の現状を表しているものと思えます。


10月1日
今日は中国建国60周年を祝う国慶節、天安門前では10年振りの軍事パレードが行われます。これには52種類の主要装備が登場し、これらは100%国産で、その中9割が初公開」(閲兵連合指揮部の高建国少将)だそうです。関心を持たざるを得ませんが、北京オリンピック開会式当日に続き、今日も天気のコントロールもするとか、何か天を恐れぬ仕業と思えます。

今朝の産経掲載「ハロランの眼」にオーストラリアの安全保障問題が取り上げられています。日本から見ますと、白人国家であるオーストラリアはアジアとは一歩離れた存在と思えます。しかし、オーストラリアにとっては膨大な人口を擁しながら混沌とした情勢が続く東南アジアと接し、人口僅か二千三百万余が広大な大陸に散らばる極めて防衛体制が薄い国であると思っているらしいのです。

最近の日豪関係では、民主党政権成立後にも「物品役務相互提供協定(ACSA)」を締結する見通しがでていますが、社民党がどう出るのでしょうか。オーストラリアにとっては、海上自衛隊の力は得難いものと思えます。

「ハロランの眼」よれば、最近ホノルルで米豪の安全保障専門家たちの集まりがあり、米専門家の1人が、中国の隠密作戦能力の拡大に懸念を表明し、「中国は何十万もの人間」を世界中に散らばらせて、他国の政治に影響を与え、経済状況を操作し、そして、ありとあらゆる種類の情報を収集しようとしている」そうです。

思い起こせば、北京オリンピック前の聖火リレーで、長野善光寺前に集まった中国人の大集団、はしなくも世界に散らばらせている何十万人もの中国人の影響力の一端を見せつけてしまいました。中国の指導者たちは、隠した爪を見せてしまったと臍をかんでいるのかも知れませんが、日本もこの現実をしっかり見据えなければなりません。