平成21年11月上旬の記事




11月10日
今朝の産経には二つの注目したい記事があります。一つは、ウォルフォウィッツ元米国防副長官の寄稿で鳩山政権に対し「対米追従か、拒否か、指導する日本か」というもの、もう一つは東大教授山内昌之氏の「外交の内政化」です。両者に共通するのは、強大化する中国へ日米がどう対処するかという視点です。

ウォルフォウィッツ氏は、戦後の日本の復興と興隆から説き起こし、戦後世代への指導層の交代を経て対米観が次第に変化していると指摘、これに対する米国の見方、感じかたを諄々と述べています。そして、鳩山首相が8月のニューヨーク・タイムズ紙に掲載した論文で、「世界の支配国家としての地位を維持しようと戦うアメリカと、これから世界の支配国になろうと狙う中国との間で」と表現したような、中立の立場を日本が見いだそうとすれば、日本の役割はうまくいかないだろう。」と書いています。

その上で、日本に対し、米国と台頭する中国との間で中立姿勢に転じるのではなく、あくまで米国と緊密な同盟関係を維持し、協力し合って中国を責任ある大国に導くよう求めています。

山内教授は、最近の日米関係について、「国家間の取り決めに背を向けて集団的自衛権でも保守的な鳩山政権に対して、オバマ政権は合理的に行動するだろう。ただし、それは鳩山首相にとって、日米同盟への甘えを打ち砕く米国の非合理な反応と受けとめられる。」と述べ、「米国は日本を斟酌せず、中国とのG2関係にかじを切り替える可能性が否定できないからだ。」とまで言っています。

ウォルフォウィッツ氏は日本人の感情への配慮が見え、米国が米中G2へと向かう可能性を否定しているように感じられます。その上で、日本が果たすべき重要な役割があることを示唆しています。鳩山政権はウォロフォヴィッツ氏の言う方向へは向かず、どちらかと言えば親中路線を歩んでいる様に見えます。産経の報道によれば、民主党議員の秘書達が中国大使館の招待に応じ、大挙して大使館の懇親会に臨むとか、既に大使館側の策謀に乗せられていることに気付かなければなりません。


11月8日
6,7の両日、東京で「日メコン首脳会議」が開かれ、今後3年間で5,000億円以上の政府開発援助(ODA)を実施することや、会議の定例化などを盛り込んだ東京宣言を採択しました。東アジア共同機構推進との関連もこれあり、鳩山首相も財政緊迫化の中でも財布の底を叩いたというところでしょうか。

メコン川と言えば、チベット高原に源を発し、雲南省をへてラオスに入り、その後ミャンマー・ラオス及びラオス・タイ国境を延々と下って、カンボジアに入り、その後ベトナムから南シナ海へ流入する国際河川です。関係する国の数は6ヶ国とアジアでは最も多くの国を流れる川です。

以前、カンボジアのトンレサップ湖を訪れた時、メコン川の凄さを少しばかり感じてきました。トンレサップ湖はカンボジア西部の大きな湖水ですが、メコンの流量によって湖の広さが5〜6倍にも増減するのです。湖に船で出ますと、湖上生活者の船が沢山あり、その船の中に日本がODAで援助して作った小学校の船がありました。湖周辺に住む人達の生活水準はと言えば、上野の山のテント生活者並と言えば良いのでしょうか、水道・電気など勿論ありません。

そのような生活水準の国はカンボジアだけでなくラオスも同様、比較的GDPの高いタイやベトナムでも田舎へ行けば貧困からの脱出はまだまだです。メコン川はラオス国内で中国に次いで長い距離を流れています。そのラオスに流入するメコンの水質が中国内に原因する汚染物質で汚染されているという、ラオスやその下流の国にとって受け入れ難い現実があります。

日メコン首脳会議では、同地域に置ける日中の勢力争いがその根底にあると報じられています。南下政策で影響力拡大を図る中国ですが、歴史的な警戒感はこの地域に国々に共通するものです。歴史的に見て、中越紛争は最近の事象ですが、カンボジア内戦においても中国はポル・ボト政権を支援、戦車やMIG戦闘機まで投入したのです。その残骸は今もカンボジアの戦争博物館で見ることができます。

この地域の国にどのような支援をするのが日本の国益に合致するのか、山田長政の事例を持ち出すまでもなく、昔からこの地域とは深い関係を持つわが国です。対中カードの一つとしても価値のある地域と思います。


11月7日
一昨日、本欄に「日教組色が強い教育関係諸法案、外国人参政権、夫婦別姓などの法案が次々と成立して行くとすれば、これは悪夢としか言いようがありません。」と書きましたところ、早速永住外国人への地方参政権付与法案を昨日民主党が議員立法で提出する方針を打ち出しました。民主党内の意見集約も行わず、強引な手法で問題がある法案を提出するとは、政党としての体をなしていません。党内からも反発が起こっていますが、この法案を主導するという小沢幹事長の影響下にある議員の数を考慮すれば成立の可能性は否定できません。

今朝の朝日は社説で官房機密費の使途を政府が明らかにしない方針を示したことについて「この豹変は見過ごせぬ」と言っています。朝日8月31日に「賢く豹変する勇気も」と社説を書いていますので、主張がちぐはぐの感は否めませんが、ともかく政権獲得前の主張と全く反対のことをぬけぬけとやるのには、朝日も目をつぶる訳には行かなかったのでしょう。その他の新聞も政府のこの処置には批判を強めています。

テキサス州の米陸軍基地で銃の乱射事件があり、13人が死亡、30人が負傷しました。犯人は精神科医の少佐だとのこと、常識的には最もそのような事件を起こしそうもない人物によるものだけに、陸軍だけでなく国内全般の衝撃も大きいと思います。その原因について多くの分析が出ていますが、イラク、アフガンの泥沼状態が根本の原因となっていることは確かです。明るい見通しがあれば、軍人達の士気も上がるでしょうが、状況は一向に好転の気配がありません。この事件でオバマ政権はイラク、アフガン政策で一層の困難を背負いました。

混迷する日米関係について朝日は「会談直前 きしむ日米関係」」との8段の記事を掲載、産経は古森記者の「鳩山政権は日本の防衛考えず」と米有識者の鳩山政権への見方を載せています。鳩山首相の発言のぶれも目立ち、また岡田外相の訪米に関するゴタゴタなど政権内は混乱のバラマキ状態です。これに加えて、オバマ政権も乱射事件以外にも多くの懸案を抱え、支持率は低下が続いています。

このような状態で、建設的な首脳会談が行われ得るのか、すれ違いだけが目立ち、実質的な成果は何も得られない会談になりそうな気がします。即ち、その状態は日米関係の危機そのものを表しています。


11月6日
昨夜のテレビ朝日「報道ステーション」では、普天間移設問題を時間をかけて報道していました。岡田外相が進める嘉手納への統合の可否についてです。在日米軍が1996年に作成した嘉手納統合案の原案の作成に携わったというブルッキングス研究所員がインタビューに出演し、平時には可能だが有事には運用上、特に代替え飛行場の確保しなければならないとの見解を示しました。

朝日新聞のコメンテーターは、このような見解があるなら嘉手納移設も考慮する余地があるのではないかとのコメントしましたが、平時にはOKでも有事にはNOでは基地としての存在価値がありません。沖縄にある基地の弱点は、代替基地がないことです。万一滑走路が使えなくなった場合のことを考えると、近くには那覇空港しかありません。九州や先島諸島の空港は遠すぎますし、先島は東シナ海有事の際には使えないでしょう。那覇空港も米軍が自由に使えるかというば、そうではありません。米軍にとって、複数の代替え基地の確保は必須のものと思われますから、嘉手納統合案は受け入れ難いものと思います。

産経の報道によれば、宮城嘉手納町長は昨日、鳩山首相が普天間問題の決着を来年1月の名護市長選後に先送りする意向を示していることについて、「わが国の安全保障、外交問題を一市民の選択に委ねて首相が務まるのか」と不快感を表明したました。鳩山首相は、関係する地方の首長からこのような批判を真っ向から浴びたことを心底から恥じ入らなければなりません。


11月5日
政治主導の名の下に、民主党は全体主義的な傾向を示してきたように思われます。予算委員会の質問で鳩山首相が答弁する度に、かつての政府委員席に陣取った民主党議員達が拍手を送る風景は異様です。これはという答弁が出た時に拍手するなら結構なことですが、常時それをやるのですから、これはどこか近くの国と同じです。

平野官房長官は昨日の記者会見で、政府の憲法解釈を国会で示してきた内閣法制局長官の過去の答弁にしばられないとの見解を示しました。政治主導の原則を守るためだそうです。これまでの経緯を見ると、自民党政権は法制局の了解がなければ憲法解釈の変更には踏み込みませんでしたが、民主党はこれを否定したのです。集団的自衛権の解釈もそれに該当すると官房長官は述べました。

民主党の新人で元外務官僚の緒方林太郎衆院議員議員が、鳩山内閣に3本の質問主意書を提出したが、「政府・与党一体」を理由に党幹部の意向などを受け、撤回していたことが明らかになったと産経が伝えています。何のために議員になったのか、新人だといっても政治に造詣の深い人達もいるのです。数の力で押すためだけに議員を使うのはは民主主義の理念にもとること、税金の無駄遣いでもあります。

首相の弟邦夫氏は「政策がどんどん左旋回を始めている。今の政権は民主党という名の社会主義政権だ」と批判しました。前民主党最高顧問の渡部恒三氏は、「民主党の国会議員は何をしたらいいのか」と述べ、権限が一部に集中した党の現状に苦言を呈しました。民主党内部からも統制の強化に批判が出ているのです。

このような体制の下の政治が、鳩山首相が所信表明で述べた「無血の平成維新」の姿であるなら、大変な事態になりそうな気配がします。日教組色が強い教育関係諸法案、外国人参政権、夫婦別姓などの法案が次々と成立して行くとすれば、これは悪夢としか言いようがありません。


11月4日
冬将軍の先陣が到来、各地で積雪、初氷、初霜が観測されました。例年より一カ月以上も早い初冠雪を観測した山もあり、温暖化が言われる中でのそれに反する現象です。気象予報士としての私の経験則では、11月に寒波がやってくると12月には寒波の元が尽きて、それ以後暖冬傾向になるのですが、今回は今までにない月初めの寒波ということで、この経験則と合うのか見守るしかありません。

寒さとともに新型インフルエンザが蔓延して来ました。国立感染症研究所によれば、警報レベル(1医療機関の受診者数30以上)を超えた保健所の数は北海道、福岡、静岡の順に多く、北海道では9割を超えています。私の住む千葉の町の診療所でも通常よりはるかに混雑しており、受診に行った家内が混雑しているので受診をやめて帰宅するような状況でした。診療所付属の薬局で聞いてみましたら、インフルエンザの患者が多くなっているとのことです。

今週末の7、8の両日、防大では開校記念祭が行われます。ホームページを見ますと、インフルエンザ対策のページがあり、「基礎疾患のある方、妊婦、お子さん(特に5歳以下)、高齢者の方は、特にご注意下さい。」とあります。

たまたま今私が航空4期生の会長を仰せつかっており、来年は卒業50周年記念の年であり、かつ槙初代校長の記念館が昨年設置されたこともあるので、全国の同期生のご夫妻を集めて開校記念祭に出掛けようと計画しました。しかし、新型インフルエンザの流行が始まる気配という思わぬ事態になり、一月ほど前に会の役員に諮って中止を決めました。同期生には奥さまを含めて必ずしも健康とは言えない人もおり、万一ということもありますので、悩んだ末のことでした。

防大ホームページの「高齢者の方は、特にご注意下さい。」という掲示は、単に注意せよという意味なのか、来校をなるべく遠慮せよという意味なのか、多分後者ではないかと勝手に判断し、早めに訪問中止をして良かったと思っています。


11月3日
衆院予算委員会の質疑が始まりました。野党に下野した自民党は大島理森、町村信孝、加藤紘一のベテラン3氏に若手の後藤田正純氏を配して質問を行いましたが、ベテラン陣は、それぞれ造詣を見せた質問だったと感じました。社民党辻元議員の「ソーリ、ソーリ」と叫ぶ品のない態度、かつての社会党の大出 俊氏の人を人とも思わぬ舌鋒、現厚生労働大臣の長妻氏の年金問題の追求などと比べると、大人の政治談義というところでしたでしょうか。

今朝のテレビ各局に出演している人達は、追求が甘いとか期待に応えないとかの評価を出していましたが、これは皮相的な見方、これまでの官僚仲立ちの質疑よりも政府側は心に響くところがあったのではないかと思います。

総括質問の際に「あなた方に言われたくない」と総理が答えたことに加藤氏が苦言を呈しましたが、総理は率直に頭を下げました。民主党が政権交代を言い、政権の座に付きましたが、次の選挙で負けないとは限りません。交代がある度に前政権に責任をなすり付けることは、あってはなりません。言い訳をしなかった鳩山首相の姿勢に賛意を表します。

加藤氏は鳩山首相の理念について質問し、民主党の閣僚に友愛をどのように解釈しているかを問いました。聞かれた閣僚達の返答は言わば通り一遍のもの、真剣に友愛を考えているとは感じられませんでした。加藤氏の質問は首相の祖父一郎氏が提唱した友愛と保守とはどのような関係にあるのかという哲学を含んだもの、鳩山首相は「友愛こそ保守である」と結んだのです。

このような哲学的な質疑を予算委員会の質問で聞いたのは初めての様な気がします。政党の理念を知らずして各論を追求するのは、意味が薄いことのような気がします。普天間問題にも、沖縄住民の意志を尊重するという友愛精神が根底に存在するからこそ、首相は決断できずにおり、その精神を理解不十分な周辺の閣僚たちは勝手なこと言い合っていると思えるのです。


11月2日
「もう見ていられない」というのが次第に露呈している民主党の安保・外交です。オバマ大統領訪日を前に、何とか取り繕う場を得ようと岡田外相がクリントン国務長官との会談を希望、日程調整を行い米国務省がこれを受けて会談の日程を発表したところ、予算委員会があると岡田外相側からキャンセルを要請したと言うのですから、開いた口がふさがりません。

鳩山首相の日米同盟の見直し発言については、本欄で10月29日に触れましたが、今日の産経の報道によれば、「首相は「包括的なレビュー」を打ち上げるにあたり、米側や関係省庁と事前に調整した形跡は見あたらない。政府筋は29日の各紙夕刊が「日米同盟見直し」と報じたことを受け、「びっくりした。政権として『日米関係は基軸』と言ってきているのに…」と困惑の表情を見せた。 」とあります。

与党社民党の福島党首は、普天間は県外・海外へ移設するべきだと繰り返し主張、更に思いやり予算も見直すべきだと言い、鳩山政権に対する米側の不信を強めています。極めつけは北朝鮮船舶の貨物検査活動から自衛隊を排除する主張を法案作成の段階で通しました。かつての不審船追跡で海上保安庁の巡視船が大きな被害を受けた事例も全く教訓となっていないのです。

これらの安保・外交政策が民主党の方針に沿った一途のものであるなら、例え対米関係が悪化しようと、選挙で国民がそのように選択したのですから諦めもしましょう。しかし、首相、外相、防衛相、与党が言うことがみなバラバラでは諸外国が日本を信用することなどあり得ませんし、国民も不安感を増すばかりです。外相が訪米して何か言ったとしても、誰も信用しないでしょう。

オバマ大統領の来日中止の可能性について先月23日に本欄で述べましたが、政府高官も岡田訪米をめぐるドタバタを見て、あり得ると洩らしたそうです。


11月1日
ダライラマ14世が来日中です。各地で講演を行っており、今日は両国国技館で「地球の未来への対話」という演題で講演が行われます。昨日は有楽町の外国特派員協会で記者会見し、中国の胡錦濤国家主席が掲げる「和諧(調和)社会」の実現について、「全面的に支持するが、真の調和とは武器や金では得られない」と述べ、チベットに対する中国の抑圧政策を痛烈に皮肉ったと報道されています。

ダライラマは1935年生まれで73歳、チベットの復権に向けて活発な活動をを続けていますが、中国の姿勢は固く展望は開けません。14世の努力は何時まで続けられるのか、いつの日かダライラマ14世が亡くなる日が来るのは避けられませんが、その後継者は輪廻転生で見出されることになっています。しかし、インド ダラムサラに亡命中のダライラマにはチベット内部から転生者を見つけることは不可能な状態です。

ダライラマ14世はこの状況を受けて、「チベットの人々がダライ・ラマの転生者が必要であるなら、私の転生者は、中国支配下のチベット国内ではなく、平和な世界のどこかの国に生まれると断言する。」と述べ、世界のどこかに転生者が生まれるとしています。ダライラマがポタラ宮の主として復活することが近い将来見込まれないとするなら、輪廻転生で正当に15世が生まれることを期待したいと思います。と同時に、この様な不当な状況を作為する中国政府の宗教への姿勢は受け入れられるものではありません。中国政府が言う調和とは相反するものと言えましょう。

今朝の産経は「チベット」関連書籍の出版相次ぐという記事を掲載しています。この記事によれば、チベットと中国の関係を書いた本の他に、仏教に関連する精神的な本が若い人達に読まれているとリブロ書籍館のマネージャーが述べています。チベットへの関心が、特に精神的な面でも高まっていることは、小林多喜二の「蟹工船」が売れているように、今の社会情勢と何か関連があるのではないかと感じます。

将来の地球環境がどうなるのか、或いは年金への不信など私どもが若い頃には無かった多くの問題が今の若者を悩ませています。なんとかしてやりたいと思いますが、明解の答えはありません。私どもも、少しずつの努力を積み上げるしかありません。