平成21年11月中旬の記事




11月16日
鳩山政権の迷走に比べて、オバマ大統領のスタンスはしっかりしています。サントリーホールでの演説はマスコミからも「東京演説」と呼ばれるようになりましたが、その中で対ミャンマー政策を次のように述べています。「われわれは現在、軍事政権の指導者と直接やりとりしている。民主的改革に向けた具体的措置が取られない限り、現行の制裁は続くということを明確に伝えようとしている。われわれは、統一され、平和で、繁栄し、民主的なミャンマーを支援する。ミャンマーがその方向に動けば、米国とのより良い関係を築くことが可能となる。」

APECに出席したオバマ大統領は、早速ミャンマーの首脳にアウンサン・スーチーさんの解放を要求、言行一致で臨んでいます。

産経は、日米首脳会談の席では、普天間の移設問題でオバマ大統領は日米合意案での早期解決を強く迫ったと伝えています。先月末のゲーツ国防長官が日米合意を尊重すべきだと事前調整に走りましたが、オバマ大統領もその線に沿った要求をしたのです。鳩山首相は、マニフェストも民意もこれありと、態度を明確にしませんでした。朝日はこの首相の姿勢を「大統領の言葉の重みに向き合おうとしない」と批判しています。

沖縄の状況は、政府の態度不明ということで、益々混迷が進み、岡田外相が言う嘉手納統合は駄目、日米合意案も難しい状況となりました。前日の大統領との会談での合意まであっさりひっくり返す鳩山さんです。結局のところ鳩山首相は普天間移設の解決を決断できないのではないか、延ばせるところまで延ばし、後は誰かに責任を押しつけるのではないかとまで思うのです。

自衛艦に民間人やNGOの人達を乗せて、医療活動や文化交流をするという「友愛ボート」なる提案を鳩山首相はしたとの報道がありました。北朝鮮の船舶検査から自衛艦を除外するようなことをしながら、友愛の名のもとに自衛隊を目的外で使おうとは、何と言うことを考えるのでしょうか。


11月15日
昨日サントリーホールでオバマ大統領の演説が行われました。拉致問題など日本への配慮が示されましたが、本意はアジア政策の方向を米国を「アジア・太平洋国家」示した重要演説と言えましょう。日本の民主党政権の登場しアジア共同体を提唱しましたが、その中で米国外しの発言があるなど米国に警戒感が起きていたことと関連がないとは言えません。

この演説で、米国の中国への関心が益々強まっていることが示されました。この思いは当然のことではありますが、米国の対アジア政策で日本の比重が軽くなる方向にあることも暗示されたように思えます。演説の中で対中政策について「影響圏の拡大を競い合うのではなく、互いに協力できる分野を開拓することが、アジア・太平洋の発展につながる。」と述べました。ブッシュ時代に軍事力の透明化や人権問題への関心をチクリチクリと言われてきた中国は゛早速この演説を歓迎すると表明しています。

米軍再編については、作業部会により迅速に進むことを合意したの述べています。ところが、鳩山首相は昨日シンガポールで来年1月の名護市長選の結果を見極めることも、改めて選択肢の一つだと述べたました。市長選の結果で移設案も変更される可能性があるということです。これでは作業部会を開いても、問題解決にはなりません。


11月14日
日米首脳会談が終わり、共同記者会見が行われました。両首脳とも言葉を飾り、友好ムードを盛り上げることに心を砕いていましたが、今期待される日米関係の改善には具体性が見えなかったと言えましょう。焦点の普天間も作業部会設置で合意しましたが、この部会で良案が出てくるとは思えません。

オバマ大統領に米人記者から広島・長崎への原爆投下をどう評価するかという質問が飛びました。原爆投下は戦争を早期に終結させ、兵士の損害を減らしたという米国の主な見方に対し、核廃絶を言う大統領への厳しい質問です。大統領は「広島・長崎で被爆した日本は、独特の視点を持っている」と言い、直接の答えは避けました。日本への原爆投下は間違っていたとは言えませんでした。

鳩山首相にはインド洋への給油をやめた理由を問う質問が出ました。首相は、全体の枠組みの中でアフガン支援を考えると述べると共に、今は給油の実績が減っているとしました。大きな枠組みの中の支援が、具体的には50億ドルの資金提供でしたから、羊頭狗肉でしょう。

行革会議による事業仕分けが進んでいます。一昨日本欄で取り上げた深海ドリリング事業は予算が削減されることになりました。科学技術関係ではスバコン開発など軒並み削られ、科学立国を目指す日本の立場と矛盾する判定が多く出されました。温暖化防止などでも、技術をもって貢献するという政策と相反するものと言えましょう。何はともあれ金額削減という仕分人の判定基準が当てはまる事業と、そぐわない事業は峻別してかかるべきだと思います。


11月13日
日本にとって最大の外交行事である米大統領の訪日が今日行われます。本来ならば、期待と希望をもって歓待する場である筈のものですが、今回はそうではありません。双方にとって最も関心の高い事案は先送りし、修辞的な言葉で飾りつけた共同声明が発表されるのでしょう。政府の要人たちも与党の議員たちも、何とか今の状況を糊塗するのに精一杯なのかも知れません。

国民にさえもオバマ訪日を歓迎するムードは出てきません。なんと悲惨な状況に陥っているのか、嘆きたくなるのです。最近民主党の御用新聞と言われる朝日でさえもさ、今朝の天声人語に政府与党の状態について「沖縄、予算、天下り、献金、日航、連立、小沢さん・・与党が抱えた爆弾は粒揃いで、野党の一押しで火を噴きかねない状況だ。」と言い、オバマ大統領訪日については、「アジア歴訪の主眼は中国らしいから、心ここにあらずとなりはしないか。」とまで書いています。

アフガン支援について、無い袖を振って50億ドルの支出を申し出ましたが、人的支援については音無しの構え、かつての湾岸戦争の教訓はどこえ消えたのか、切羽詰まっての処置にしか見えません。この金額に大統領はthank youと言うでしょう。歴訪の最後の国である韓国は300人の派遣を決めましたので、米韓首脳会談でもオバマ氏はthank you と言うでしょう。どちらのthank youに重みがあるか、言う迄もありません。


11月12日
昨日から政府の行政刷新会議による事業仕分け作業が始まりました。首相自ら必殺仕分人と激励した仕分人達が次々と事業廃止などの判定を出す有り様は、見物する側にとって不謹慎ですが面白い。その一面、民主党の無駄を省くという政策のPRの場となっている観もありますから、仕分人たちが一生懸命になればなるほど、お祭りの中で事が決まって来るような気分にさせられます。

最近読んだ本に「地球の内部で何が起こっているか」(光文社新書)があります。地球環境には排出ガスの関連で気象(大気)が大きな影響を与えているのは常識になっていますが、この本は深海を含む海洋は勿論のこと、地殻、その内部のプレート、更に最深部のマントルまでが地球環境のシステムとして働いているという最新科学の状況を3人の科学者が書いています。

衝撃的な話として、恐竜の世界であった白亜紀は、今より遥かに温暖で海面の高さは今より250mも高かった、これは南極やグリーンランドの氷が全部溶けても70mにしか過ぎないので、地球環境は今と全く違っていたなどということあり、今の地球は大きく見れば寒冷な時代なのだそうです。

今エネルギー源として注目されている深海のメタンハイドレードに含まれるCO2の量は、空気中のCO2の10倍にも達するのだそうで、環境の変化でこれが空気中に放出されるようなことがあれば(過去の歴史ではあった模様)、白亜紀の再来のようなことも考え得るといいます。そして、この研究のためには、日本が建造した深海掘削船「ちきゅう」の果たす大きな役割があるとしています。

今回の事業仕分けの中に、科学技術関係の項目が幾つもあります。文科省関係の項目にも、▽宇宙ステーション補給機▽衛星打ち上げ(24年度以降打ち上げ分)▽深海地球ドリリング計画推進▽地球内部ダイナミクス研究などが見られます。ここに見られるように、深海掘削や地球内部ダイナミックス研究が俎上に乗っているのです。

このような事業は応援団の声は小さく、仕分人達が言う事業の成果も見えにくいもの、他の事業の仕分けの判断基準から言えば、切られて当然のものと思われます。上掲の本も、「ちきゅう」の役割の大切さを説得力をもって書いています。このような事業を仕分けの対象として選定されてしまったこと自体が、切り代になっているのではないかと懸念しています。


11月11日
産経が「米政府が米軍嘉手納基地に展開するF15戦闘機の半数を米軍三沢基地に移転させる構想を日本側に打診していることが10日、分かった。」と報道しています。三沢基地のF-16は冷戦時代にソ連への対処が主な任務で、今はその戦略的価値が低下していましたから、F-16の撤収は近い将来あり得ると見られていました。しかし、嘉手納のF-15の半数を三沢に移転させる構想には驚きを感じます。

産経は嘉手納、三沢の両基地から北朝鮮への距離はほぼ同じなので、北に対処するには同じ価値だとの分析をしていますが、両基地から北朝鮮へは7〜800マイルあり、戦闘行動の距離としては少々遠すぎます。半島有事の際には、韓国内の基地使用が必須です。

嘉手納のF-15を半減させることによる東シナ海方面への抑止力の低下を米国はどう見ているのでしょうか。空自が今年、那覇のF-4をF-15に入れ換えたことによって、米空軍がその方面への戦力低下を補えると考えたとは思えません。米空軍のこの措置が実行されれば、米国の対中戦略が明らかに変更されたことを意味すると考えます。

今週のオバマ大統領の訪日、訪中の重点は何処に置かれているのか、滞在日数だけ見ても、明らかに中国重視です。中国の米国債保有額は8月末の時点で7,971億ドル、最大の債権国です。日本も中国に比肩する債権国なのですが、影響力の大きさという面から、米国は対中配慮をせざるを得ない状況なのでしょう。

外交的にも経済的にも対中配慮が重視されるなら、軍事的にも配慮が及ぶのは当然のこと、沖縄のF-15の半減はその帰結であると見るなら、日本も今後は東シナ海方面への戦略を再考しなければなりませんが、立場は一段と苦しくなりそうです。